仮定は確信へ
ついこの間一緒に帰った日は、罰をうけたあとでクラスのモブ共はもういなかった。
だが、今日はそんな都合よくモブ共がいなくなるはずもなくさっさと帰るヤツ、ダラダラとまだ準備を進めてるヤツと様々だった。
こんな中名前に声をかけて一緒に教室を出るなんてことが出来るはずもない。それは名前も同じようで、丸顔やらデクやらに声をかけられては断って気まずそうにしている。
このまま待っていても埒があかないうえ、逆に怪しい。スマホを取り出して、数年前のSMSを探る。
登録はしていないずらりと並ぶ電話番号と内容から名前と思われるものを探し当てた。俺のことを名前で呼ぶのはババァかクソ親父か名前だけなので、すぐにわかる。
スマホ片手に教室を出れば『門で待ってる。』とだけ送信してポケットにしまいこむ。
靴を履き替えて門に背中を預けていれば、ばたばたとあわただしい足音が聞こえてくる。ちらりと門のほうを見ていれば、ゴールテープを切るかのごとく勢いよく現れた名前は俺を見つければ駆け寄ってきた。
「先に出て行っちゃうから昼のこと忘れてたのかと思っちゃった。」
「名前じゃねんだから忘れるか。」
「私だって忘れないよ!」
走ってきたせいか乱れた呼吸整えさせる暇は与えない。門から背を離して駅へと向かう。少し後ろに名前が着いてきているのを確認する。
ぱたぱたと制服を前後に動かして風を通す名前を横目に見ていれば、今まで意識したことのなかった見え隠れする鎖骨へと視線がいった。
少し汗ばんだその肌を見ては、仮定がまた一歩確信に近付く。
「……ねぇ、勝己。」
「なんだよ。」
「昨日、ごめんね。あんなに気にすると思ってなくて。」
「なんのことだよ。」
「出久みたいに優しく、って言ったやつ。」
少し俯いた名前の顔は髪に隠れて表情は見えない。いつのまにか横を歩いていた名前は俺より早く一歩進むとくるりとスカートを翻した。
「勝己には勝己の優しさがあるもんね!」
その表情は先ほどまでの声色からは想像できないほどまぶしかった。
斜めに降り注ぐ太陽にも負けないくらい、まぶしく笑った名前に、あっさりと仮定は確信へと変わった。
俺は、名前が好きだ。
認めてしまえば簡単なもので、あれだけ頭にこびりついていた名前のいろんな表情も、ババァの言葉も全部、消えて今は目の前の名前のことだけしか考えられなかった。
行きとは違う空いた電車は名前との距離を不必要に狭める必要がなく、どこか心地よかった。
電車を降りて、人通りの少ない住宅街に入れば頭上をカラスが鳴いていく。
いつもの曲がり角についても、もう少しだけこの感覚に浸っていたくて分かれずに着いていった。
「あれ、勝己こっちに用事?」
「ほっとけ。」
「あ、もしかして迷子が怖くて私と一緒に帰りたがったの?」
「ふっざけんな!迷子になんてならねーわ!」
「私ね、勝己に嫌われたかと思ってた。」
「アァ!?」
「なんか勝己急に変になるし、変だからいつも通りにしようって思ったらもうめっちゃキレてるし。」
一拍置いて、足を止めた名前がじっと俺を見ている。
「私のこと、嫌いになっちゃった?」
「俺はわざわざ嫌いなやつと帰るほど暇じゃねーわ。」
「よかった!じゃあまた明日ね!迷子になっても泣いちゃだめだよ!」
ばたばたと、またあわただしい足音をたてて名前は家へと駆け込んでいった。
家に入ったのを見届けてから、俺は方向を180度変えて家路についた。少しだけ、明日が楽しみだった。
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