いつもの見慣れた光景
朝、いつもの曲がり角。互いが互いを待つでもなく、待ち合わせでもなく、自然と歩幅が名前の小さいものに合う。
「勝己、おはよ!」
あれから名前は俺を避けることなく通学するようになった。俺は無駄に考え事をする必要がなくなったから、まっすぐ通学路を進んでいく。
変に頭を支配していた名前のいろんな顔は、ふとした時には思い出すが、すぐに消えていくようになった。
ババァの言葉は、自分で認めちまえばつっかえになることもなくなって思い返すこともなくなった。
代わりに、名前の表情がコロコロと変わるのを目で追うようになったり、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、アリンコサイズくらい可愛いなと思うようになった。
電車でモブ共に潰される名前を見ながら、降りる駅になったら鞄を引っ張ってやるようになった。
駅から学校も、置いていくことはなくなった。
「どけよ、名前」
俺の席の後ろでデクと丸顔と話している名前のふくらはぎをガツンと、蹴った。
蹴られたというのに意にも介さず名前は話を続けている。
「今日のヒーロー基礎学はどんな内容だろうね?」
「無視してんじゃねぇ!どけっつってんだよ!おいコラ、名前!!」
聞こえていない振りをする名前にイラついてボンッと手のひらを爆発させる。デクが名前の肩を叩いて俺を指している。クソナードのくせに俺を指差すとはいい度胸じゃねぇか。
「てめぇ!クソデク!指差してんじゃねー!」
「うるっさい!座るのに今!私の!なにが邪魔なの!」
「俺の周りでぎゃーぎゃー騒いでんのが邪魔なんだよ!」
「ここは教室で勝己の城じゃないんだからちょっとくらい我慢しなさいよ!あ、それとも一緒に話したいの?」
「誰がてめぇらと話してぇっつった!」
ここ数日俺たちの喧嘩がなかったせいで安心していたらしいモブ共が、遠巻きに見ている。
「よかった!名前ちゃんと爆豪くん仲直りしたんやね!」
「誰がクソ名前と仲直りだ!」
丸顔とデクだけがよかったよかったとでも言うがごとく頷いている。
そもそも喧嘩なんてしてねぇわ、クソが。
そんな2人の様子に感化されたのかクソ髪も絡みにきやがった。
「最近、爆豪朝苗字さんと一緒に登校してきてるよな。」
「えっ、そうなん!?だから最近朝会わへんかったんや!」
「えー!見かけたなら声かけてくれたらよかったのに!私切島くんともっと話してみたい!」
「えっ、そんなに俺話しかけづらい!?」
「男の子ってだけで緊張する!出久と勝己はもう慣れたけど!」
「うるっせェェエエ!テメーら全員ぶっ殺す!」
ボンッボンッと短い間隔で手のひらを爆発させる。次のヒーロー基礎学が実践か演習だったら容赦しねぇ。
「一番うるさいの勝己だから!!」
名前の言葉に笑い声が聞こえる。全員の足を一発ずつ蹴ってやった。名前だけちょっと強めに蹴った。
こうやって少しの変化をもって元に戻った日常を手放したくなかった。
俺の気持ちを伝えるのは容易いが、そのせいでこの間みたいに避けられたり、そもそも話しかけてももらえなくなったら嫌だった。
そもそも名前は俺をそんな風には見ていないだろう。今の関係を崩すくらいなら気持ちを隠すことくらい、やってやる。
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