神様 仏様 勝己様


「名前ちゃん、おはよう。」

「出久!おはよ。今日はいつもより早いね?」

「うん、なんだか早く目が覚めちゃって。名前ちゃんはいつもこの時間なの?」

「そうだよー。あとは大体このくらいで…」

「デク!!てめーなんでいんだよ!」

「勝己がくる。」


ヒィィ、と出久から悲鳴が聞こえる。あれ、いつもはこんなに勝己も不機嫌じゃないのに、おかしいな。

言葉が荒いのは毎朝のことだけど、今日は一段と顔も怖い。こんなことを時々されるもんだから、私のことを特別だと思ってくれているんじゃないかと思ってしまいそうになる。


落ち着け、名前。出久と勝己が水と油なだけだ。


「勝己、今日は朝ご飯の牛乳飲んでこなかったの?」

「飲んだわ、ボケ!つーか関係ねェだろ!」

「かか、かっちゃん!ボ、ボク先に行くから!」


今にも手のひらを爆発させてしまいそうな勝己を尻目にたったかたー、とあまり早くはないけれど、出久は走って行ってしまった。小さくなる出久の背中を見ていれば、ふくらはぎに鈍痛が走る。


「おい、なんでデクの野郎がいやがった。」

「たまたま会っただけだよ。」


事実をありのまま告げれば、勝己の機嫌は僅かに落ち着いた。時々蹴られるふくらはぎが鬱陶しいので、ちょっとだけ個性を使ってふくらはぎを潤わせる。

これで蹴られても痛いのには変わらないけど、勝己も濡れるの嫌がって蹴ってこなくなる。

うんうん、私も成長してる。




ルーチンと化した満員電車も勝己が動けば降りる駅だから降り損ねることもない。そういえば勝己と行くようになったの一度降り損ねて遅刻ギリギリになった次の日からだったような気がする。

あの日は相澤先生にこってり絞られたから、相澤先生になにか言われたのかもしれない。

じゃなきゃ、勝己が大人しく私と毎朝一緒に行ってくれるはずがない。

そしてなにより、電車を降りてしまえば勝己は私を置いて学校へ行ってしまう。これがなによりの証拠だ。





通学路を進んでいけばだんだんと雄英生が増えてくる。目の前に見えるはお茶子!
認識するやいなや駆け出して抱きつく。お茶子は独特のふわふわ感があって大好きだ。


「お茶子おはよ!」

「あ、名前ちゃん!おはよ!今日は爆豪くんの怒号が聞こえてけえへんねー。」

「朝一出久に会って怒鳴ったから疲れたのかもね。」

「あの爆豪くんでも疲れることあるんかな?」

「あー…なんだかんだ体力オバケだよねぇ。」


二人で勝己の物真似をしてはクスクス笑いながら歩いていればもう学校だった。
慌てて辺りを見回すも、勝己はもう教室に行ったあとらしい。よかった、見られてたら殺されてた。私が。







授業の終了を告げるチャイムが鳴り響く。
さぁ、お昼だ。今日はなにを食べようかな。カツ丼?しょうが焼き定食?パスタもいいなぁ。

なんて上機嫌だったのはつかの間。いくら鞄を探っても大事なものは見つからない。


「お茶子…先に行ってて…財布、忘れた。」

「貸そうか?」

「いや、大丈夫。でも10分たっても現れなかったら死んだと思って…。」


お金を借りるしかない。でもお茶子は一人暮らししてるらしいし、一時的にでも借りるのはなんだか申し訳ない。

とりあえず出久に……と思ったけど、もういない。いるのはまだ鞄を探っている勝己だけだ。

これがフラグ回収か。勝己にお金借りるなんて、死しか待ってない。でも、やるだけやってみないとご飯が食べられなくて死んでしまう。


「か、勝己くーん…」

「アァ!?」

「財布忘れちゃって…その、お金、貸してほしいなー…なんて思ってるんですけど…」


あくまで下手に、下手に…。勝己の怒りの琴線に触れないように必死に表情を伺う。

お、怒ってはなさそ……いや、まて。なんであんなにこやか…!


「へーえ?それが人にもの頼む態度かよ?」


にこにこ、いやニヤニヤしながら私の出方をじっと見られている。
屈辱にも程があるけど、背に腹は変えられない…!


「財布を忘れたのでお金貸してください勝己サマ!!!」


まるで飯田くんのようにビシッと腰を90度に折り曲げて頼み込む。機嫌がよければこれで貸してくれるはずだ。

チラリと勝己を盗み見れば相変わらずニヤニヤしたまま財布を手にしている。

ふわりと頭の上に何かが乗せられる。見なくてもわかる、機嫌が良くて助かった。


「勝己ありがとおおお!!」

「うっせェブス!」


そっと頭に乗せられたお金を握り締めて食堂で待っているお茶子の元へと急ぐ。背後で10倍にして返せだとかなんとか叫んでる勝己は今は無視だ。ご飯を食べたら応戦してあげる。

それにしても、今日はなんだかいい日になりそうな気がしてきた。

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