最善の策


急いで背後を取られないように勝己と背中合わせに敵と対峙する。私に向かって飛び掛ってきた敵は切島くんが切りつけてくれた。

なぜか機嫌の悪い勝己は、それはそれは悪人顔で次々と敵を爆破していく。

勝己と切島くんの猛攻に怯んだ敵が後ずさっているのがわかる。逃がしはしないと、戦闘服に付けられたパイプの蓋を開けて個性を使う。

空中の水分も使って敵の顔に水をまとわせる。

息が出来なくなった敵は苦しそうに悶えている。少し離れた場所から攻撃している遠距離持ちの敵を中心に、どんどん気絶させていく。

その間にも、やけになって襲ってきた敵たちは勝己や切島くんに呆気なく倒されていった。

隠れていた敵もどんどん出てきて、周囲には敵の山が出来ていた。ひとしきり暴れて機嫌も戻ったらしい勝己の汗を乾かすついでに、パイプの先に繋がるタンクへ減ってしまった水を補給する。


「これで全部か。弱ぇな。」


「っし!早く皆を助けに行こうぜ!俺らがここにいることからして、皆USJ内にいるだろうし!攻撃手段少ねぇ奴等が心配だ!」


周囲を見回しても、もう敵の姿はない。気配もないから、さっきので全員だったのだろう。


「勝己たちが先走った所為で13号先生が後手に回った。先生はあのモヤの敵と戦おうとしてたのに、それを邪魔したのは勝己たちなんだよ。私もまず状況を把握して、みんなの手助けにいくべきだと思う。」


「そうだよな。男として責任とらなきゃ…」


「行きてぇなら二人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す!」


勝己の発言に耳を疑った。それは切島くんも同じだったようで、大きな声をあげて反論している。

私も切島くんと同意見だ。そんな危険なことに頷けるわけはないし、この施設内には二人のプロヒーローがいる。そちらに任せて私たちは、一人でも多くの生徒の無事を確保することが先決だと思うのだ。


「敵の出入り口だぞ。いざって時逃げ出せねぇよう元を締めとくんだよ!ヒーローがいたって逃げられちゃ意味がねぇ。それに、モヤの対策もねぇわけじゃねぇ」


そのとき背後から、姿を消していたらしい敵が勝己に向かって飛び掛る。

すかさず水を顔に纏わせ、勝己が爆破する。叫び声をあげることも出来ず、一瞬で伸された敵を切島くんは驚いたように見ている。


「つーか生徒に充てられたのがこんな三下なら大概大丈夫だろ」


「勝己の言うことももちろんかもしれないけど、全員が全員私たちみたいに攻撃に特化した人たちじゃないんだよ!?その子たちが万が一捕まって人質にでもされたら、プロヒーローだって迂闊に手出しできなくなる。バラバラにされてしまった今、それを防ぐのが私たちの役目じゃないの!?」


「だからそれは名前がやればいいだろ。俺はモヤをぶっ殺す。二手にわかれりゃいいだけだろうが。」


勝己は一向に首を縦に振ろうとはしなかった。それどころか、効率がいいとさえ言いたげだ。


「つーかそんな冷静な感じだっけ?おめぇ……」


「俺はいつでも冷静だ、クソ髪やろう!!」


ぽかんとしていた切島くんがおずおずと口を開いた。そうか、いつもキレてるのが通常運転の勝己だと思われているから、不思議なんだ。

キレた勝己にほっとした切島くんの表情が少しだけ安心を生んだ。


「じゃあな、行っちまえ」


ここで話していても埒が明かないと思ったのか、勝己が一歩踏み出した。

このままだとモヤの敵に突っ込んでしまう。慌てて勝己の腕を掴んで引き止める。


「待て待て、ダチを信じる…!男らしいぜ爆豪!ノったよおめェに!」


勝己の腕を掴んだことで一瞬止まった足に口を開こうとしたとき、切島くんが決意を固めた表情をしていた。

ガイン、と硬化された拳がぶつかる音が響き渡った。

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