僅かなすれ違い


「ちょっと待ってよ!切島くんまで!」


掴んだはずの腕はあっさりと振り払われて建物を出て行く二人を追いかけていく。

二人ともこちらを振り返ろうとしない。


「言ったろ。二手に分かれんぞ。」


「私はそれを了承してない!」


「苗字さん、俺たちなら大丈夫だからさ。」


決心は相当固いのか、なにを言っても二人の足は止まらなかった。いつのまにか、飛ばされた建物の入り口まで来てしまった。


「勝己!こういうのはプロに任せて……」


「行くぞ、クソ髪。」


あちらこちらから戦闘の音がする。セントラル広場に向かって駆け出した二人の背中に声をかけるも、やっぱり止まることはなくて奥歯を噛み締めた。

切島くんだけは、最後まで私を心配そうに見ながら大丈夫だよって言ってくれてたけど、勝己は振り返ることもしなかったし、最後なんて無視された。

悔しい。

唇を噛み締めたまま二人が行った方向とは違う方向に足を向ける。今いるのが、恐らく破壊された建物内での救助をメインとした場所。

最初の説明のとおりだとしたら、様々なエリアがあるに違いない。ずっと走っていれば、少しだけ空気が冷えているような気がした。

破壊された建物のエリアが終わって、土と氷がまばらに見える。土の上に氷が張っているということは、轟くんでも飛ばされてきたのだろうか。


「誰か、いる!?」


ここは土砂エリアなのだろう。内部へと入り込んでいけば、氷付けになった敵たちが見える。足元だけを凍らされた敵たちは身動きが取れないようだ。


「苗字さん!」


姿は見えないが、どこからか声が聞こえてくる。


「ここ!ここ!」


声は近くから聞こえてくる。ということは葉隠さんでもいるのだろうか。足元の氷をじっと見ていたら、一箇所だけ不自然に盛り上がった氷が見えた。


「葉隠さん、大丈夫?」


声をかけてみれば大丈夫だというので、葉隠さんを覆う氷に水をかけていく。凝縮された水分は僅かに温度が上がるが、それでも本当に僅かだ。氷が解けるのに時間を要する。

周囲の敵が完全に動きを停止させたとも思いにくい。

凝縮を繰り返しながら少しずつ解けていく氷の水も使って敵一人ずつに水のヘルメットをプレゼントする。

一人、また一人と酸素を失って気絶していく。


「くそっ……なんだよ、さっきのやつといい、こいつといい……本当にガキかよ……。」


敵の言葉、どうやら轟くんは本当に瞬殺していったらしい。しかし、当の轟くんはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。

セントラル広場のほうからは激しい戦闘音が聞こえてくる。勝己は大丈夫なのだろうか。

仮に怪我をしたとしても、私は止めたのだから勝己の勝手だとは思う。思うけれど、やっぱり心配でしかたない。


視界に入る敵を全て気絶させた頃にようやく葉隠さんが動けるくらいに氷が解けた。私には見えないけど、体を動かしてどこにも不調がないことを確認している。

確認が取れれば次のエリアだと土砂を滑ってしまわないように慎重に降りていく。

途中、大きな音が聞こえてきて、そちらを見たら屋根に大きな穴が開いていた。そこを突き破って飛ばされたのが、誰だったのかはわからなかった。


「今のって……敵がやられたのかな?」


「わかんないけど、たぶんそうだと思うよ。今日の授業、オールマイト先生も見てくれるって言ってたし、あのパワーならオールマイト先生がやってくれたんじゃないかな。」


セントラル広場が今どういう状況なのかはわからなかったが、不思議と不安や焦燥はなかった。

土砂エリアを抜けたところで、パワーローダー先生と会って、怪我がないことを確認してもらって他のエリアも同様に先生が見て回っているからと、ゲート前へ戻るよう指示された。

既に戻ってきていた生徒たちが不安そうに各エリアを見つめている。


「お茶子無事だったんだね!」


「名前ちゃん!私らはモヤに飲まれへんかったから、13号先生もおったし大丈夫やってん。」


お茶子や飯田くんの姿が見えて、残りの階段も駆け上がった。端のほうに勝己と切島くんもいて無事なのはわかったけど、話す気になれなくてすぐに視線を逸らしてしまった。


警察の人も現れて、各所に現れていた敵たちを連れて出て行っている。勝己がこっちに来たけど、逃げるように反対側へと歩いていった。


「尾白くん……今度は燃えてたんだってね一人で……強かったんだね。」


「えっ、尾白くん一人だったの?そっち行けばよかった……。」


「皆一人だと思ってたよ俺……ヒット&アウェイでしのいでいたよ……苗字さんと葉隠さんはどこにいたんだ?」


「私は倒壊したビルの中。」


「私は土砂のとこ!轟くんクソ強くて一緒に凍らされてびっくりしちゃった。苗字さん来てくれて助かったよー。」


歩いていれば、葉隠さんと尾白くんの会話が聞こえてきて、ちょっと強引に混ざらせてもらった。

それにしても一人のところもあったんだ。やっぱり三人で回ったほうが良かったんじゃないかと思い直す。

葉隠さんたちと談笑していたら、バスに戻るよう指示があったのでぞろぞろと移動を開始する。

出久の姿が見えなかったので、きっとさっき警察の人から話にあった両手両足骨折っていうのは出久のことなんだろう。

保健室にお見舞いに行こうか、なんて考えてたら腕が後ろに引っ張られた。振り返ったら勝己とばつの悪そうな表情の切島くんがいた。

なにがあったかは聞かなくても、広場の様子と重傷のヒーロー二人、あのオールマイトすら保健室に運ばれたとの話からわかっていたつもりだった。

いろいろと言いたいことはあったが、うまくまとまらなくて、私が勝己にされたように、腕を振り払ってバスへと駆けていった。

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