第一回男子会議議事録


8月某日、さんさんと降り注ぐ直射日光は現代社会の象徴とも言えるアスファルトを焼いて、人だけでなく生けるもの全ての体力を奪っていく。

休日ともなればクーラーの効いた涼しい部屋で勉学に励むに限る。

だというのに、クラスメイトの女子たちはせっかくの夏なんだから、と元気に八百万のプライベートビーチとやらに行ってしまった。

今回は女子だけで、と断られたこともあって峰田や上鳴あたりが悔しがっていたのは記憶に新しい。

そんな男ばかりが取り残された1-Aの寮。その談話スペースには、緊急招集された男どもが所狭しと密集していた。


「苗字……だろ?」


「あぁ。」


こうなったのも、談話スペースで暑さとショックにだらけきっていた峰田、上鳴、それにつき合わされていた瀬呂、切島、砂藤に声をかけたせいだった。

だらだらとしているだけで、特になにをしている風でもなかった5人に、クラスメイトで周知の事実の俺の想い人でもある苗字の話題を降ったら少し待っていろと言われてこの有様だ。

ただし、爆豪はくだらないといって戻って行ったし、飯田は全く別ベクトルに暴走を開始したので部屋へ帰らされた。


「単刀直入に言えば、どう苗字にアピールすればいいのか皆目検討がつかない。」


俺の言葉に、全員押し黙ってしまった。それもそうだろう。苗字といえば、ふわふわしていてどこか掴みどころの無い、予想の斜め上を突っ走る天然女。これがほとんどのクラスメイトが抱いている感覚だ。


「確かこの間轟くんが付き合ってくれって言ったらトレーニング室に連れて行かれたって……」


「結局時間が来るまで一対一のトレーニングで終わった。」


「好きって直接言ったことは?」


「ある。けど、こう……うまく伝わらなかったというか。」


「おい、もしかしてあの好き好き事件って……」


「あぁ、俺が好きだって言った日だな。」


苗字のあまりの天然炸裂っぷりに皆が皆肩を落とした。直球で伝えたところで伝わらないのに、これ以上どうしろというのだ。

それは轟自身も感じていて、だからこそ相談したというのもある。三人よればなんとやら。六人もよればいいアイデアが出るに違い無いと思ったのだ。結果的に
十二人まで膨れ上がったのは予想外だったが。

「もういっそ……苗字のこと押し倒してキッスでもすりゃあ……!」


「おい、峰田。それはやめておけ。」


「そーだぜ、もし苗字が実は轟のことめちゃくちゃ嫌いでしたーとかで、しかも初めてだったらトラウマもいいとこだし。」


峰田が名案だとでもいいたげに提案するが、即障子と切島が却下する。実は俺のことが嫌いだったなんてことになったら、正直まともに顔を合わせることなんて出来ない。

仮に峰田案が満場一致で通ったとしても、それはさすがに気持ちが通じ合ってからしたい。


「あ、じゃあさ、二人っきりでデートしてみたらいいじゃん!手繋ぐくらいなら大丈夫っしょ。」


「そういえば、明後日に近くの神社で祭りがあると聞いたな。」


「くそっ……リア充しやがって……!」


意見が即却下された恨みか、峰田の妬みを聞き流しつつ、明後日にあるという祭りに誘うことを決めた。

が、問題もいくつかあった。


「ボクたちは知っているからついて行かないけど、女の子たちは行きたがるんじゃないかな……!」


青山の言葉に誰もが頷いた。たしかにその問題もある。だが、それよりも大きな問題が一つあるのだ。


「……俺、祭りとか行った事ねぇ、んだけど。」


俺の言葉に全員の動きが止まってしまった。そんなに大問題だっただろうか。

とはいえ、小さい頃は親父のせいで出かけることなんて出来なかったし、出かけたいと言ったところで、鍛錬があるからと許しても貰えなかった。

そのせいで、祭りに行くという経験がなかったのだ。


「それならいっそ誘いやすくね?女子は俺たちでなんとかさせるし、周りはカップルだらけ。そんな中二人っきりで花火の下告白、なんて最高だと思うんだけど。」


「切島夢見てるな!!」


「うるせー!!」


話も終息に向かい始めたからか、だんだんとじゃれあいだすクラスメイトたち。だが、逆にそれが心を軽くさせた。

言葉だけで伝わらないなら、状況も巻き込んでしまえばいいのだと教えられた。神社の祭りなんて常闇が何故知っていたのかと聞けば、トレーニング兼一人になりたいときによく利用しているらしい。

ついでに人がほとんど来ない穴場スポットというのも教えてくれた。

峰田には欲望を全てさらけ出せと言われる。即座に尾白に殴られていたが、緑谷曰く俺は表情にあまり出ないから、峰田ほど出すのもよくないが、もう少し出してもいいと言われた。

ひとまず、誘い出して手を繋ぐことを目標として、第一回会議は終わりを迎えた。少しベタなくらいが調度いいんだと念を押される。

あとは、海から帰ってくる女子たちを待つだけだ。帰宅は16時頃と言っていた。果たして祭りに誘って苗字は首を縦に振ってくれるだろうか。期待と不安が渦巻く中、規則正しく時を刻む針を今か今かと見つめていた。

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