ヒーローと敵


「それじゃあ講評に移るわけだが、苗字そのまま座っとけ。」


全員が集まったことを確認してぐっと立ち上がろうとしたら相澤先生の声が飛んできた。どうやら疲労困憊なのは先生にバレバレだったらしい。


「今回のMVPだが、苗字だ。全体的にヒーローチームはそれぞれの個性を上手く使って立ち回っていた。逆に敵チームはバラバラ。チームワークなんててんでなかった。」


講評が始まっていきなり褒められた。かなり嬉しい。けどまだまだ課題はたくさんある。そもそも本来の現場ならば、もっと戦闘になるはずだ。こんな上手くいくとは思えない。


「周囲への警戒不足、こうしていれば大丈夫だろうという慢心、相手はたかが三人という油断。」


相澤先生が淡々と告げていけば敵チームのみんなの顔が沈んでいく。まぁ、でも先生の言うことは最もだし、そこを上手くつけるようには工夫したつもりだ。


「もっと各々の個性の使い方を考えろ。自分の個性だけでなく、他人の個性の使い方も合わせて考えられるようになったほうがいい。これはヒーローチームにも言えるな。誰か一人が負担をかぶらないようにしろ。動けなくなって助けてもらう前提のヒーローは邪魔なだけだ。」


これは私のことを言ってるんだろう。一人だけ疲労度がおかしいし、たぶんあと10分続いてたらそれこそ動けなくなってた。

自分の体力不足がこんなところで露見するなんて、悔しい。


「ま、そんなところだな。じゃ、戻るぞ。」


相澤先生の合図でみんなバスに向かって移動を始める。座りっぱなしだった私も立ち上がって一歩足を進めたつもりだったが、少し休んだことで疲労がどっと出たのかふらついてしまった。


「大丈夫か。」


顔を上げて真っ先に目に入ったのは燃えるような赤い髪と、対照的な白い髪だった。


「だ、大丈夫!」


慌てて自分で体を支える。轟くんの腕が触れた部分が、熱い。さっきまで感じていた疲れなんてどこかへいってしまったような感覚にさえ陥ってばたばたと走ってバスへと向かった。

真っ赤な顔を冷ます余裕もなくバスに駆け込めばもうほとんどみんな乗り込んでいて座席がちらほらと空いているだけだった。


「あ、名前ちゃん!……ここ座り!」


お茶子ちゃんが少しの間をもって手招きをしてくれた。一瞬は忘れた疲れもすぐに戻ってきて考えるのが億劫になった私は、そのままお茶子ちゃんが座ってた座席に腰掛けた。

窓に頭をぶつけると、少しひんやりしていて気持ちがいい。


「デクくん、隣座らせてな!」


てっきり隣に座るものだと思っていたお茶子ちゃんはそのまま2つ後ろの緑谷くんの隣に行ってしまった。

まぁいいかと窓の冷たさにうとうとしていると、隣に人が腰掛けたのか座席が沈むのを感じた。

それが誰かを確認する余裕もなく失った体力を補うようにゆっくりと意識が沈んでいく。動き出したバスの揺れを窓越しに感じてゴツゴツと頭を何度もぶつけたが、それすらももう気にならない。


本格的に意識を手放す直前、窓から頭が離されて代わりに反対側へと体が傾いた。窓よりもひんやりした何かに触れた。しかも窓と違って頭が痛くない。

心地よい冷たさに指先でそれが離れていかぬよう無意識に握り締める。次の瞬間には意識が完全に落ちて夢の中へと旅立っていった。

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