現実の中の夢


いつも通りなら、次の曲がり角でヘラヘラとした笑みを浮かべた名前が見えてくる。

待ち合わせをしてるわけじゃねェ。全部、偶然だ。

「おいコラ、ブス!テメー昨日のこと忘れてねェだろうな。忘れてたらぶっ殺す。」

「わぁ、たいへん!明日の新聞の一面に勝己が載っちゃう!よっ、有名人!」

「ぶっ殺す!!」

アメリカ人かっつーくらいにオーバーリアクションを取る名前がむかついて、手のひらを爆発させる。

とりあえずは学校だ。名前に背を向けて駅へと向かっていれば、いつもはうるさい声が全く聞こえてこない。

不思議に思って振り返れば鞄を探っているようで、今返すのかよめんどくせぇ。学校ついてからにしろよ、と口にする前に目的のものを見つけたのか手になにかが握られているのが見えた。

しゃあねェから今もらってやるかと駅とは反対方向に足を向けた。朝の早い時間、モブはほとんどいねぇ。そんな数少ないモブが名前のほうを向いて悲鳴をあげている。

視線を向ければそこには大きな瓦礫がアイツに向かって一直線に落下していた。

「ッ、名前!!」

無意識だった。全力で背後に向かって手のひらを爆発させれば一気に体が押し出される。

何度も何度も、爆破を繰り返す。早く、もっと早く。伸ばした腕は、ぎりぎり名前を掴んだ。力任せに引き寄せて最後の爆破を行った。落ちてきた瓦礫は、後方に伸ばした腕を掠って大きな音を立てた。

最大出力を繰り返した腕が痛むのも気にせず、俺にしがみついて体を震わせる名前の体を数度撫でる。


コイツはこんなに小さかったのか。

いつからかハッキリとしだした体格の差が今ならよくわかる。掴んだときの細い腕。引き寄せたときの軽い体。腕の中にすっぽりと納まってしまう、小さい体。


周囲で見ていたモブたちは、いつの間にかいなくなっていた。警察への連絡はヒーローがしたらしい。

横にそれていた意識が、現実へと戻ってくる。気付けば俺の制服は名前の涙で濡れていて、改めて一歩間違っていれば名前の命はなかったのかもしれないと、思い知らされる。

名前を見ていれば、涙で真っ赤になった瞳が向けられた。僅かに唇が動いて見えるが、まだ恐怖が拭えないのかそれは音にならない。

声を出すことは諦めたのか、またしがみついてくる名前の温もりを感じると、柄にもなく安心した。ちゃんと名前は生きている。


少しは落ち着いた様子を見せる名前をヒーローに預け、呼ばれた俺は状況を説明した。

敵のせいかと危惧したヒーロー数名が周囲を捜索したらしいが、特にそれらしい人物は居らず、現場検証の末事故だろうとの見解が聞かされた。

敵が関わっていないのであれば問題ないと名前は警察とヒーローに任せ、俺は学校へ向かう。

最後にもう一度見た名前はまた涙を流していた。初めて見た名前の涙は、俺を動揺させる。この状況で慰めてやれるのは、俺しかいないと思ったからだ。

遅刻は確定だが、悪態をつく気にはなれなかった。


学校につけば、警察から既に連絡がいっていたのかすぐに保健室に連れて行かれた。
じんじんと痛む腕は疲労と引き換えに治してもらった。

モブ共には事情が知らされていないのか、寝坊だのなんだの周囲で騒ぎ立てる。

「うるせえ!」

ガツンと机を蹴れば、機嫌の悪さは伝わったのか、それ以上言われることはなかった。


クソうぜぇ。その日は7限終了まで名前のことが頭から離れなかった。

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