夢か現か
勝己ママといろいろ話をしていたらスーパーへの道はあっという間だった。
勝己と勝己ママに一旦別れを告げて、切れかけていた日用品をカゴに放り込んでいく。
勝己ママにだって言えなかったけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ万が一、億が一にも勝己と付き合えたとして、その先にあるのはこういう光景なのかなって、思ってしまった。
そんなことばかり考えていたものだから、もう昨日のことで怒っていたことも、無視してしまったことも忘れていた。というか、またちょっと変だったけど、普段どおりに近い勝己のおかげで、忘れることが出来た。
そういえば調味料もいくつか切れかけていたことを思い出して、日用品はもういいかとフロアを降りた。
調味料を物色していたら、どこか疲れた様子の勝己を連れた勝己ママが勝己を置いてカートを押してまた意気揚々とどこかへ行ってしまった。
「なんでそんなに疲れてるの?」
「あのババァ……!」
キレそうな勝己を横目に、大方向こうでやってた特売の人ごみにでも派遣されたのだろう。
勝己ママのことだ。ちゃんと取ってこないと怒られるだろうし。
勝己には悪いが、勝己ママは荷物持ちを口実にその要員として勝己を呼んだんだと密かに思ってた。
いつも使ってる調味料を見つけては、カゴに放り込む。少し重くなってきたカゴに、カートを持ってくればよかったと後悔してももう遅い。
一旦床において上段にある商品に手を伸ばした。手にした商品をカゴにいれようと振り返ったら、なにかにぶつかった。
「クソが、ちゃんと前見とけ。」
すいません、と反射的に謝って顔をあげたら勝己がさっき置いたはずのカゴを持ってそこにいた。
カゴの中に商品を入れて、カゴを受け取ろうとしたけど、勝己はカゴを離さなくて、他に買うものがあるのか聞かれる。
その様子が道すがら考えていたこととリンクしてしまって、恥ずかしくなってしまってよく考えないままにもう大丈夫とだけ返してまたカゴを奪おうと試みる。
「こんなに買うもん溜めてんじゃねぇぞ。」
すたすたと行ってしまった勝己はレジに向かっている。慌てて追いかけて、レジの列に並んだ勝己に追いついた。
「勝己ママのとこ行って来なよ……!」
「ふざけんな、もう突っ込まされたくねぇんだよ。」
ぶちぶち文句を言いながらどんどん列は短くなっていく。ついに私たちの番になってしまって、そのままレジを通されていく商品を二人で眺める。
こんなくだらないことでさえ、どきどきして仕方ない。
全てレジを通されて、お金を払うために持ってきた鞄から財布を取り出した。それを見た勝己が空になった鞄を奪ってカゴとともに向こうへ行ってしまった。
追いかけようにもお金を払わなければいけなくて、お会計を済ませる。おつりとレシートをもらって、勝己の元へといけば鞄のなかにどんどん買っていったものが詰め込まれていた。
「勝己、そこまでやってくれなくていいって……!」
綺麗に詰められているから、作業に文句があるわけではない。ただ、申し訳ないのと恥ずかしいのとで顔から火が出てしまいそうなだけなのだ。
「勝己、これよろしく。」
どうにかこうにか鞄を奪い返せば、隣にお会計を終わらせた勝己ママがいて、カートと袋を勝己に渡していた。
どうやら、勝己がここまでやってくれたのは一重に勝己ママの調教のおかげだったのだろう。
勝己ママと勝己がレジ袋に商品をつめていくのを横目に見ながら詰め終わった袋を持ってカゴを返しにいった。
戻ったら勝己と勝己ママは喧嘩してたけど、何故か勝己の顔は真っ赤だった。
どうしたの、って聞いたら怒鳴られた。勝己ママは笑ってる。ますますわけがわからなくてもう一度聞いたら足を蹴られた。暴力ものめ。
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