限界調査
「苗字、今日とれた。いいか?」
「大丈夫!」
轟くんに声をまたかけてもらえて、テンションがあがる。上機嫌なまま指定されたトレーニング室に行けば、もう轟くんはいた。
「先に苗字のお願いとやら聞かせてくれ。先にやるか、後にするか決めたい。」
「あ、うん。私の個性の強度限界を知りたいんだよね。だから、私の個性を氷点下まで持っていってもらったり、思い切り熱したりしてほしいの。」
私の申し出に轟くんは渋い顔をした。なにか失礼なことでも言ってしまったのだろうか。
「悪ィ、左はつかわねぇことにしてるんだ。凍らすのはかまわねぇけど、熱するのは爆豪にでも頼んでくれ。」
轟くんのポリシーなんだろうか。聞いてみたい気もするけれど、轟くんの目がそれをさせてくれない。
明らかな拒絶を感じた。
「そんくらいなら先にやっちまうか。個性出してくれ。」
熱するのは諦めてとりあえずかちんこちんに凍らせてもらう。わかりやすいように濃い青色に染めたテグスを凍らせてもらう。
テグスのほうに感覚はない。今実際に何℃くらいで冷やされているのかわからない。強度はMAX、伸縮性はないテグスだ。これを取り出した時に強度がどうなっているかが気になる。
「かった……!けど、もろくなってる感じはないし、純粋に一時的に強度が上がってると見るべきかな。」
「凍るほどの水分があるとは思えないけどな。」
「凍ってるというよりは、冷えてもともと小さかった伸縮性がほぼ無くなったみたいな感じかな。曲げるのが大変。」
普段ならくねくねと自由自在に動かせるテグスも、かっちかちに冷やされた今は非常に動かしにくい。活用方法は思いつかないが、これが原因で個性が全く歯が立たなくなることはなさそうだ。
「ありがと!下はかなり大丈夫そうなのがわかったし、さっそくやろうか。」
硬くなってしまったテグスを切り落としてトレーニング室の隅に置いた鞄の傍へ置いた。時間経過したときの状況をあとで確認するためだ。
このトレーニング室は適度な障害物がある。きっと私が戦いやすい状況で対策を練りたいのだろう。
轟くんと一定の距離をとって対峙する。スタートの合図はない。いつだって戦いはいきなりなのだ。
先に仕掛けるのはどちらか。お互いにタイミングを見計らう。轟くんは遠距離も近距離も得意だ。なら、先手必勝もしくは空中戦にするべき。
鬼ごっこのときと同様、透明のテグスを轟くんの周囲に這わせる。視線はまったくテグスに移していない。これは練習の成果だ。
すぅ、と呼吸を大きく吸って吐き出せばそれが合図。
一気に締め付けて壁に向かってぶん投げる。同じ手はさすがに安直だったのか轟くんが驚いた表情を見せたのは一瞬ですぐに氷壁を作って壁への激突を避けた。
「同じ手とは舐められたもんじゃねぇか。」
テグスが解けたわけじゃない。力任せに壁際へと押し続ける。轟くんの個性で出現した氷結のせいで、視界が白くにごる。
轟くんの姿は見えないが、場所はテグスでわかる。このまま一気に押し込んでしまえばと力を込める。
パキパキとなにかが凍っていく音が聞こえる。見れば、轟くんの側からテグスが凍らされている。
慌ててテグスを切れば天井の榛にテグスを巻きつけて体を一気に天井付近まで持ち上げる。
白い空気がはけて視界がクリアになると、消えた私に轟くんはすぐさま上を向いた。ここからでは私も攻撃手段がない。こういうときの攻撃手段を考えなくてはならないな、と頭にメモしておく。
「やっぱり同じ手にはのってくれないよね。これからだよ、轟くん。」
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