いざ、対決
これからとはいったものの、攻撃手段は限られている。轟くんも空中への攻撃方法はなくはないが、大振りになるのでためらっているのだろう。
両者こう着状態が続く。
こういったことも含めて、対策を練りたいと言ったのだろう。轟くんがなにも考えていないはずがない。少しの変化も見逃さないように集中する。
ぴくりと小さく轟くんが動いた気がした。勘違いだったとしても動く分には問題がないだろうと考えるより先に、前方へとテグスを伸ばして移動する。
「あっぶない……!」
間一髪だった。鈍い音がして天井に何かがぶつかる。確認すれば小さな氷の塊のようだった。はっとして轟くんを見れば今度は逃がさないとばかりにこちらを狙っている。
やばいと思ったときにはもう轟くんの手から氷のつぶては放たれていた。叩き落そうにも、テグスは細すぎて上手く当てられる気がしなかった。
いくつか頬を掠めていくつぶてを避けながらどんどん移動していく。どうしても直線的な移動しか出来ないせいで、回避先が読まれている。
どんどんつぶてに当たる確立があがって来ている。このまま空中にいても、埒があかないので、先ほど壁への衝突を避けて轟くんが作り出した氷壁へと飛び移る。
「それで逃げたつもりか。」
轟くんは好機とばかりに氷壁に氷壁を重ねてくる。つぶてよりよっぽど正確性が高いその攻撃は氷壁に着地した私を追いかけてくる。
急いで体勢を立て直して駆け抜けようと一歩足を踏み出したときだった。踏ん張ったつもりの足がどんどん重力に従って落ちていく。
慌てて出した手も、つるつると滑る氷を掴むことは出来ず、余計にバランスを崩して背中から落ちていく。
「あんなとこ、走れるわけねぇだろ。」
今私はネコだ!と思い込んで体を反転させてみようとしたが、そんなことできるはずがなく、衝撃を覚悟したのだが、一向に訪れることはなかった。
「え……?」
一瞬の出来事すぎて、理解が追いつかなかったが、どうやら私は今視線の先にある氷壁から足を滑らせて落っこちたらしい。そして、衝撃を感じなかったのは察知した轟くんが抱きとめてくれたからだ。
「俺が氷の上でも普通に走れてるのは、靴にスパイクが付いてるからだ。びっくりさせんな。」
「ありがとう轟くん大好き!」
がばっと体を起こせばここぞとばかりに抱きついた。こんなときに乗じておかなければ、一生できないかもしれない。
抱きしめてくれるなんてことはしてくれないが、引き剥がされることもないので、目いっぱいに堪能しておく。
やっぱり男の子は大きい。いつかぎゅっと抱きしめてほしいな、なんて妄想しながら現実逃避を決め込む。
「こないだ寝てたときも思ったけど、苗字って小さいよな。」
妄想のしすぎで幻聴が聞こえたのかと一瞬思ってしまった。しっかりと鼓膜を揺らした声の主は、轟くんしかいなくてなんだか恥ずかしくなってしまう。
一度そう思ってしまうとくっついているのもなんだか恥ずかしくなって、ひとまず立ち上がった。たくさんある氷壁のせいで少し肌寒い。
私が退いたことで轟くんは、氷を少しずつ溶かしていく。まだ溶けていない氷壁にぺたぺたと触れれば体が震えた。
そういえば、さっき抱きついたときの轟くんの体も冷たかった。やはり必ず中心地にいる轟くんはそれだけ体が冷えるのも早いのだろう。
それは、轟くんが使おうとしていない左側を使えば、解決できはしないのだろうか。
そうは思っても、あの明確な拒絶の後では口にすることも出来なかった。
轟くんが炎を使わない理由は、いったいなんなのだろう。
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