戦いの序章


「皆ー!!朝のHRが始まる。席につけー!!」


朝から飯田くんがフルスロットルだ。勝己をちらりと見れば、うるさくてか体を震わせている。

昨日の今日だし、相澤先生の代わりは誰が来るんだろう、と思っていたのに、開いた扉から現れたのは包帯ぐるぐる巻きの相澤先生だった。

相澤先生の復帰にさすがプロだと喜ぶ声や、本当に大丈夫か不安の声が上がる。


「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ。雄英体育祭が迫ってる!」


戦いと聞いて全員の気が張り詰めた。のだが、続けられた言葉で力が抜けた。そういえば、放送される体育祭は毎年この時期だったような気がする。


「雄英体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ。」


確かにそうだ。ヒーローとなるためには、まずヒーローに見初めてもらうことが一番の近道。メディアの放送もあるし、老若男女問わず注目されている催しだ。


「時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」


自然と胸が躍る。例年の通りなら、予選と本選があってトーナメント式のガチンコバトルがあるはずだ。予選と本選にどんな種目がくるかは分からないけど、ここにいる全員が敵であり、味方である。

出久や勝己だって、すごいパワーだから勝ち上がっていけば戦うことになるだろう。

私の個性は、どこまで通用するのか。わくわくして仕方がなかった。




「なんだかんだテンション上がるなオイ!!」


昼休み、体育祭のことを消化しきったクラスメイトが固まって拳を握り締めている。切島くんなんかはまさにやる気まんまんだ。

じっと彼らを眺めてテンションを静かに上げていたら、視線を感じた。振り返ったら勝己と目が合って、すぐに逸らされた。


「皆!!私!!頑張る!」


不思議に思いながらも視線を戻せば、お茶子が勝己みたいな顔で拳を振り上げてた。みんな体育祭に向ける熱量がすごくて私も負けていられない。

体育祭まであと2週間。

やれることは早めにやっておくに限る。体育祭は公平のために体操服着用となっている。戦闘服の着用には申請がいるのだが、後回しにしていては忘れてしまいそうだ。


「失礼します。体育祭の戦闘服着用の申請をお願いしたいんですけど。」


がらりと、大きな職員室の扉を開いて一歩だけ中に入る。たまたま近くに居たセメントス先生に書類を渡された。


「きみの個性は……凝縮蒸発か。確かにこれは戦闘服が欲しいところだね。この用紙に記入して。許可が下りたら相澤先生から連絡してもらうから。」


「はい、ありがとうございます。」


時期的に乾燥が厳しいわけではないが、それでも武器となる水分が少ない会場では、体内の水分を使わざるを得なくなるかもしれない。

あまりやりすぎると命にも関わる可能性が高いので、申請をしておく必要があった。

セメントス先生に教えてもらいながら書類を埋めて、そのまま提出した。審議は2、3日で行われるらしい。やっぱり後回しにしなくてよかった。

ぺこりと頭を下げて職員室を後にして食堂に向かう。少し遅れただけで、激混みだ。一番列の少なかったそばの列に並んでざるそばを頼んだ。

すぐに出てきたおそばを持って席を探す。

ちらほらボックス席は空いているが、一人でボックス席を占領する気にはなれずうろうろしていたらお茶子と飯田くんに声をかけてもらえた。


「苗字くん!よかったら一緒にどうだ?」


「助かる!」


席についてぱちんと手を合わせる。ずるずるとおそばを啜りながら会話は自然と体育祭のことに向いていく。

一番の感心は競技内容についてだったが、どれもこれも予想の範囲を出ないまま決着は付かなかった。


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