位置について、よーい
「皆準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
控え室に響く飯田くんの声にいつも以上のやる気を感じる。きっと今頃は会場は溢れんばかりのヒーローたちで溢れかえっていることだろう。
耳を塞いでいても聞こえるくらいだ。敵襲撃を乗り越えた1年生のクラスがある、と。
「梅雨ちゃんは緊張してないの?」
「ケロ、してるわ。でもそれ以上に頑張らなくちゃって思うの。」
この場での活躍が今後にも大きく関わってくる。しかも今年は3年生ステージ以上に注目が集まっている。この機会を逃すわけにはいかない。それは誰もが思っていることだった。
梅雨ちゃんにくっついて体温を感じているとちょっとだけ安心する。大丈夫、頑張れる。
「おまえには勝つぞ。」
深呼吸を繰り返していたら、轟くんの声が聞こえた。視線だけそちらに向ければ、どうやら緑谷くんに宣戦布告をしているようだ。
随分喧嘩腰の轟くんに急いで切島くんが止めに入っている。今日の轟くんは、ちょっとだけ近寄り難い。
「僕も本気で獲りに行く!」
でも、緑谷くんも負けず劣らずだ。みんな真剣に、今日という日に望んでいる。
二人の言葉に背中を押された私は、梅雨ちゃんから離れて、拳を握り締めた。私なんて、眼中にはないのかもしれないけど、それでも私だって……!
時間になって、控え室を出てきた。もう誰も言葉を発していない。みんな集中モードだ。
ザン、とフィールドに足を踏み入れれば会場がわっと盛り上がる。緊張しているのは私だけではないようだ。緑谷くんの顔が引きつっている。
さっき控え室で見た彼は一体どこへ行ってしまったのだろう。
「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな……!なァ爆豪。」
「しねえよ、ただただアガるわ。」
こんな中でも爆豪くんは闘志を燃やしている。その不屈の精神をちょびっとでいいから私にも分けて欲しい。
ばっくん、ばっくんと脈打つ心臓が口から出てこないように胸を押さえる。緊張が最高潮だ。
「名前ちゃん、大丈夫よ。そのうち慣れるわ。」
「競技が始まるまでには……多分。」
梅雨ちゃんに背中を叩いてもらって、ちょっとだけ緊張が和らいだ。周囲を見回せば、轟くんは相変わらず表情が硬い。
私たちに続いてぞくぞくと入場してくる1年生がフィールド中央に集まってくる。
「選手宣誓!!」
前方にミッドナイト先生が見える。なるほど、主審はミッドナイト先生が勤めるのか。
「1-A爆豪勝己!!」
みんないっせいに爆豪くんを見た。本人はいたって普通だ。そういえば、爆豪くんは入試一位だったような気がする。
轟くんが推薦じゃなかったらどっちが一位だったんだろう。それも今日わかるのだろうか。
「せんせー。俺が一位になる。」
朝礼台への階段の上で、爆豪くんが大胆不敵な選手宣誓を行った。当然の如くブーイングが各方面から上がる。
そりゃそうだ。みんな一位を目指してるんだから。
私だって一位を目指してるから、爆豪くんにだって負けない。負けるつもりはない。ただ、こんな大勢の前で言い切れるだけの自信が、純粋にうらやましかった。
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう。いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者がティアドリンク!!さて運命の第一種目!!今年は……コレ!」
ヴン、と目の前に投影されたのは『障害物競走』だった。
これはついてるかもしれない。どうせい雄英で行う障害物競走なんて普通のチマチマしたものじゃないんだろう。そうなれば私の個性はうってつけだ。
「我が校は自由が売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」
予想通りだ。どんな仕掛けが待っているか、さっきまでの緊張は期待にすり替わっていた。
入り口は狭い。すみません、すみませんと声をかけながら前へ前へと這い出ていく。頭上で信号が一つずつ消えていく。
スタートは、もうすぐだった。
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