第一関門


『スターーーート!』


掛け声と同時にほぼ全員が駆け出した。狭いスタートゲートは案の定詰まっていて上手く動けない。

それでもスタート前になんとかいい位置をとっていたおかげで、早々にスタートゲートを通り抜ける。


「最初のふるい」


声が聞こえたかと顔を上げれば、道がどんどん凍っていく。急いで轟くんにテグスを巻きつけて大きくジャンプする。

上に跳んだせいで失った推進力は、轟くんの力を借りる。ぐんぐん引っ張られるテグスも地面につく頃には離して巻き取る。

ずっとつけていると、進む速度の差で転んでしまいかねない。


『さーて実況していくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』


『無理やり呼んだんだろが』


マイク先生と相澤先生の掛け合いが聞こえる。けど、そっちに集中している余裕は、今はない。


「甘いわ、轟さん!」


「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」


背後から八百万さん、爆豪くんの声が聞こえる。振り返らなくてもわかる。A組は全員突破したんだろう。うかうかしていられない。今の順位は何が何でも死守したい。

轟くんが後ろを確認している。私も後ろとどれくらい距離があるのか確認したかったが、まだお世辞にも体力がついてきたとは言いがたい。この先何が待っているかわからない以上、無駄な体力を使うのは避けたかった。


「轟のウラのウラをかいてやったぜ。ざまあねえってんだ!くらえオイラの必殺……」


峰田くんの声が聞こえる。峰田くんの個性は厄介だ。捕まってしまうわけにはいかないのでさすがに振り返る。しかし、そこに峰田くんはいなかった。

代わりにいたのは、角ばった機械。いつぞや戦わされた、仮想敵だった。


『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ!!』


マイク先生の声が聞こえる。これが障害物か。まさか動くものが出てくるのは予想外だった。それも大量。これは間を縫うのも一苦労だったが、考えている余裕などない。

ロボの間接に向けてテグスを伸ばす。入試のときにこいつとは一度対峙した。そのときに感じたのは、攻撃力は高いけど動きは遅い!

弱い関節部分にテグスをしっかり巻き付ければ、勢いをつけて巻き取っていく。前方に巻き付けたテグスを巻き取れば、必然的に推進力が生まれる。

ロボは引かれる力に体勢を崩して前傾している。推進力を保ったままテグスを解いて次のロボへとテグスを伸ばす。

すると、ロボが一気に凍りついた。間接も凍らされてしまって、氷の上はテグスが巻きづらい。


「やめとけ、不安定な体勢ん時に凍らしたから……倒れるぞ。」


声が聞こえたと同時に目の前のロボがぐらりとバランスを崩してこちらに向かって倒れてくる。

急いで視界に入った木にテグスを巻きつけて体を引っ張る。間一髪倒れるロボには巻き込まれなかったものの、あのままだったら死んでいたかもしれない。

というか、肩をロボが掠めていった。怪我こそしていないものの、ずきずきと痛みが走る。

ゆっくりと勢いを殺して着地すれば、もうロボのゾーンは通り抜けていたが、コース真ん中からは少しそれてしまった。

急いで先に行ってしまった轟くんを追いかける。


自分の個性を活用するだけじゃいけない。先を行く人たちの個性も考えて、どう邪魔されるかを考えて、それさえも避ける必要があるのか。


「前を行くのは轟くん……凍らされるとやっかいだよね、って爆豪くんに瀬呂くん、常闇くんも!」


ロボの頭上を通って真っ直ぐに道を行く彼らにまで抜かれてしまった。
これ以上抜かれると、どう邪魔されるか考えるのがこんがらがってしまう。早く行かなければ。幸い後方はまだ来ていない。

急いで手と足を動かして、前へ前へと進んでいった。

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