体育祭、開幕


2週間、みっちりと練習を繰り返したおかげで、凝縮蒸発の速度は格段に上がっていた。特に水と汗の蒸発はほぼタイムラグ無しに行うことが出来る。こっそり勝己の手のひらの汗を蒸発してみる練習もしたが、ニトロのようなものを含んだそれは、なかなか上手く蒸発させられない。

こっちはまだまだ練習が必要なようだ。実戦には使えない。

控え室ではみんなのやる気が伺える。砂藤くんの横に座って精神を集中させる。勝己は隣の上鳴くんとなにかを話している。飯田くんは相変わらずだ。


「おまえには勝つぞ。」


「おお!?クラス最強が宣戦布告!?」


聞こえてきた轟くんの言葉に全員の視線がそちらへ向いた。上鳴くんは驚いているし、勝己は怖い顔で見つめている。


「勝己は宣戦布告しに行かなくていいの?」


「俺は名前もぶっ倒して一位になるぞ。」


「私にじゃなくてさ。ていうか勝己は私との相性最悪じゃん。」


流れで振ったら、私に宣戦布告された。違う、出久や轟くんにしなくていいかって聞いたんだよ私は。

相性最悪にキレたらしい勝己に椅子を思いっきり蹴られた。砂藤くんと上鳴くんが心配してくれた。こういう優しさを勝己にももってほしいものだ。


「うっせ。デクの野郎も半分野郎も全部ぶっ倒して俺が勝つんだよ。わざわざ言うまでもねぇ。」


勝己が不機嫌なまま、もうすぐ入場とのことで控え室から出て行く。不機嫌な勝己の傍にいたらまた蹴られかねないとお茶子の傍に駆け寄る。


「お茶子!頑張ろうね!」


「絶対、負けられへん。頑張ろうな!」


ぐっとお茶子と拳を交わして、ゲートをくぐる。私たちの姿が見えたことで体育祭開始の合図となったのか、一気に会場の熱気があがった。

タンクから繋がったパイプに触れて、心を落ち着かせる。大丈夫、戦闘服全ては許可が下りなかったが、タンクは許可が下りた。タンクの半分ほどは、すでに水が入れてある。これだけあれば十分戦える。

一年生全てがフィールドに集まったようで、スタンドだけではなくフィールドの熱気もすごい。

カツン、カツンとヒールを鳴らしたミッドナイト先生が今年の主審のようだ。


「選手宣誓!1-A爆豪勝己!!」


私の後ろにいたらしい勝己がゆっくりと前に出て行く。ていうか、選手代表だったのか。知らなかった。出久も知らなかったみたいだし、驚いている。

入試一位は伊達じゃないってことか。

ダルそうにポケットに手を突っ込んだまま、生徒たちの前に立った。


「せんせー。俺が一位になる。」


「絶対やると思った!!」


切島くんとはほんと意見があうな。私もやると思った。案の定各クラスからブーイングと野次が飛んでくる。勝己はモロともせずに踏み台になれとか言ってる。

自信過剰なんて声が聞こえてきてるが、違う。私と、多分出久だけが知ってる。勝己は、今までならこういうのは笑って、それこそ敵顔負けの悪人顔で言うんだ。

それをしないということは、控え室で聞いた覚悟が相応のものなのだろう。


列に戻っていく勝己をじっと見ていても、視線が交わることはなかった。ぐっと握り締めた拳を解くことは、なかった。

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