必殺ぬかるみ戦法
どうやらこの先は地雷原らしい。濡らしてしまって不発させるのが一番だろうが、このままの順位だと少し危ないかもしれない。急いでザ・フォールを抜けて駆け出す。
先に抜けたらしい人たちが前を走っている。数を数える余裕はないが、当初の予定10位程度は無理かもしれない。
『先頭以外もここで怒りのアフガン到着だー!!先頭は…おおっ!ここで先頭がかわったー!!』
前方に見えるのは勝己と轟くんのままだから、勝己が追い抜いたのだろう。気合を入れなおして足元数歩分を目いっぱいにぬらしてぬかるませる。ぐしょぐしょになった地面は、下に埋まった地雷も濡らしていく。
試しに踏んでみても動作しない。鈍くなっているだけかもしれないから、油断は禁物だが、このままなら問題がなさそうだと判断して前方をぬかるませながら通った道を瞬時に乾かしていく。
後続に道を作ってはあげられない。
ばしゃばしゃと泥を跳ねさせながら、慎重に進んでいる人たちを追い抜いていく。先頭まであと数人というところで、後方大爆発が起きた。音が大きすぎて距離感がわからない。
巻き込まれないためにも一度振り返った。どうやら煙の位置からして入り口付近だろう。
『偶然か故意か、A組緑谷爆風で猛追ーーー!?』
ものすごい勢いで飛び出してきたのは、出久だった。体の下には、なにか硬そうな装甲がある。それを盾にして、勝己の爆速ターボを応用したのだろう。
思考の柔軟性がうらやましい。速度に乗った出久はあっという間に私の頭上も飛び越えて行った。
ぼーっとしている時間はない。急いで出久を追いかける。
『抜いたあああああー!!』
マイク先生の声が響き渡る。あの勢いのまま先頭まで追いついたのか。前方でまた爆発が起きた。どうせ出久が妨害目的かなにかで爆発させたんだろう。思い切り追いかけていた勝己も、轟くんも一瞬足を止めているのが見える。
追いつくなら今しかないと、周囲も一層スピードを上げていく。地雷原を抜ければあとはスタジアムに還るだけ。
先頭は今どうなっているのかと顔を上げたら、大歓声が聞こえた。
『さァさァ、序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――……緑谷出久の存在を!!』
ラストスパートをかけてスタジアムへ向かっていく。ゲートを潜り抜ければすでにかなりの人がいる。ぜぇぜぇと息を吐き出して呼吸を整える。
後続の邪魔にならないようスタジアムの中央へと歩いていく。途中、腕を押さえている勝己が見えた。多分、ずっと爆破を続けていたから、軽い火傷のような状態になっているんだろう。
「勝己、腕貸して。」
「ほっとけ。」
「どうせリカバリーガールのところにも行かないんでしょ。」
強引に押さえている腕を離させて水で包み込む。火傷なら、これで少しはマシになるだろう。
「礼はいわねーぞ。」
「はいはい、私が勝手にしたことだから構わないよ。」
ひらひらと手を振って中央へと駆けていく。もう勝己の手を見てはないから、勝己が水を思い切り振り払えば霧散してしまうだろう。
だから、勝己が嫌で仕方ないならそうすればいい。けどまぁ、あの様子だと振り払うことはないだろう。少しは楽になってくれればいいんだけど。
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