本線への切符


『残り時間約1分!!轟フィールドをサシ仕様にし……そしてあっちゅー間に1000万奪取!!とか思ってたよ、5分前までは!!緑谷なんとこの狭い空間を5分間逃げ切っている!!』


残り時間はわずか。まだポイントは0。でも狙いは定めてる。幸いにも標的にしたチームは少しでもポイントを稼ぐことに必死のようだ。

0ポイントの私たちには目もくれていない。


「近付いて。」


心操くんの指示に従って少しずつ距離を詰めていく。もう少し、もう少し。


『なーー!!?何が起きた!!?速っ、速ーーー!!!飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよーー!!!』


マイク先生の実況で観客だけでなく、ほとんどの騎馬も騎手も一瞬意識が轟くんが作り出した氷に囲まれた一角に注がれた。

今しかない。


「仕掛けるね、心操くん。」


「取るのはギリギリな。」


「了解!」


あくまで小声で。するすると透明のテグスを伸ばしていく。

残り時間も1分を切って観客は大いに盛り上がっている。生憎と1000万は氷壁に囲まれている。標的のチームは、僅かに油断が見える。

通過を確信しているのだろうか。

今ポイントを取り返せるほどの実力があるのは爆豪くんチームだけで、なおかつ3位との差は約500ポイント。

体感的にはあと15秒。出来れば本当にギリギリ。なんなら1秒くらいで奪ってしまいたい。


『残り17秒!こちらも怒りの奪還!!』


観客たちの視線はもう緑谷くんチームと轟くんチームしか見えていない。大丈夫、やれる。


『そろそろ時間だ。カウントいくぜ、エヴィバディセイヘイ!10!』


「個性は?」


「もう絡めてある。あとは引くだけだよ。」


『9、8』


「残り3秒、3秒あれば手元まで戻せる。」


『7、6』


「しくじるなよ。」


『5』


「大丈夫。」


『4』


すう、と息を吸い込めば一気にテグスを押し上げてハチマキを全て騎手の頭から外した。彼らが全て頭に巻いてくれていて助かった。


『3』


全力でテグスを巻き取っていく。私たち騎馬も、ハチマキに近付いていく。幸いにも、ハチマキを奪われたことに気付いていないようだ。


『2』


ハチマキまであと少し。周囲に他のチームは居ない。一見飛んでいるように見えるハチマキに気付いているチームもない。


『1』


顔に影が落ちる。心操くんがハチマキに手を伸ばしたのだ。上を見上げて軌道を修正する時間はもう残されていない。仮に受け取れなくても私の個性が繋がってるから大丈夫だとは思う。けど、どうせならやっぱり手に持っていてほしい。


『TIME UP!』


長いようで短かった15分が終了してしまった。周囲を見渡せば、そのほとんどが轟くんに凍らされて、ポイントを手にすることが出来ず、項垂れてしまっている。

心操くんに従っていただけとはいえ、やはり騎馬の高さと騎手の高さでは視界が違う。動きながら状況を把握するのは難しかっただろうし、心操くんと組めてよかった。


『早速上位4チーム見てみよか!!1位轟チーム!』


さすが轟くんだ。必死で見えてなかったけど、1000万は死守したらしい。やっぱり轟くんのチームに入りたかったけど、私が入っていたら役割的にあの結果は出なかったと思うと、悔しいけど入れなくてよかったとも思ってしまった。


『2位爆豪チーム!!3位鉄て……アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?』


「ご苦労様」


「えっ、あれっ」


「尾白くんどうしたの?」


後ろの騎馬だったから私がポイントを奪ったのが見えていなかったのだろうか。正直びっくりするくらい尾白くんは挙動不審だ。


『いつの間に逆転してたんだよオイオイ!!』


とりあえず無事に通過できてよかった。次は一体どんな競技が待っているのか、不安のドキドキは、興奮のドキドキへとすり替わっていた。


『4位緑谷チーム!!以上4組が最終種目へ……進出だああーーー!!!』

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