断片
「今日は色々あったなー…」
寝支度をしながら一人呟く。
色々あったせいか、体はいつもより重い。
それでも、沖田くんとの確執が無くなったことを思うと、この重さも何だか心地良いものに感じる。
明日からが楽しみでしょうがない。
「何か良い夢見れそう」
私はそう笑いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
〜・〜・〜
『…何でこんなことに…』
『くそ!どうして!どうして奴らは!』
――誰…?
『あの方達はただ!ただ安穏とした生活を望んでいただけなのに!』
『これが…私たち“人間”…』
『せめて…せめてあの子達が逃げ延びてくれていれば…!』
『…それらしき姿は里にはありませんでした。だから…』
――お父…さん?お…母さん…?
『っ!ま、真尋…?真尋!!』
『良かった…目が覚めて…!!』
――ねぇどうして…泣いてるの?…どうしてこんなに体が痛いの?
『!!』
『覚えて…ないのか』
『いいか、真尋。今日からお前は男の子として生活しなさい』
――何で?どうして?
『あなたのためなのよ…』
『これからは私達もお前を男の子として扱う』
――…いつまで?
『…もっともっと大きくなって、あなたが男の子として生きていけなくなるまでよ』
『そろそろ次に移るか…』
『そうですね…ここもそろそろ感付かれるでしょうし』
――父上、どうして俺達は一ヶ所に留まらないのですか?
『……』
『悪い人たちに追われているのよ…』
――誰に?
『お前は知らなくていい』
『…………』
『ただ…私達は何もしていない。友を守ろうとしていただけだ』
『ちっ、ここまでか』
『あなた…!』
『あぁ…いいか、真尋。この刀、お前に授ける。これからはこの刀が父さんたちの代わりだ』
――父上!?
『いい?合図したらすぐに裏から逃げなさい。逃げて逃げて生き延びなさい。そしてどうか…幸せに……』
――母上!?
『いたぞ!こっちだ!』
『来たか!』
『今よ!早く行きなさい真尋!』
――嫌だ!嫌だよ!
『はは…さすが…にこの…人数は…』
『早く…逃げな…さい』
『真尋…これが……私達人…間だよ……』
――ちち…うえ!母上!!
『早くトドメを!』
「っ!!!!」
気が付けばそこは見慣れた部屋で。
冷や汗でぐっしょりとなって、呼吸が乱れている自分以外は何も寝る前と変わっていなくて。
「夢…か」
そう脳が認識した途端に体の力が抜けた。
……随分嫌な夢を見た。
此処に来る前の……自分。
誰にも言っていない――女の子だった自分。
「まあ…それは一瞬だったけど」
私には幼少の記憶がない。
私の一番の古い記憶は、傷だらけの体で布団に横たわり、涙を流す両親を見ているもの。
何が、あったなんか分からない。
聞いても教えてもらえなかった。
それでも自分の怪我と両親の涙の理由は関係があるのだろう。
そんなことを考えていたのを思い出す。
そして「男の子」となり、一家で各地を転々とし……
私は一人になった。
なぜそうなったのかは分からない。
私達が何から逃げていたのかも、誰が両親を殺したのかも。
気にならないと言えば、嘘になる。
だがそれは、もう二度と明らかになることは無いと思っている。
調べる術が無い。
それでも私は忘れる事は無いだろう。
父と母の最期を。
「これが人間…か」
両親は何を言いたかった?
あの――侮蔑と自虐が入り交じった瞳は何?
「何で今……」
……わざわざ今日にこんな夢を見るの?
「父上…母上……」
私は再び布団をかぶる。
枕に出来る染みは広がるばかり。
幸せになりなさい。
貴方たちはそう言ったけど。
私は――
「今」が怖くなりました。
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