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思わず近藤の後ろに隠れてしまった真尋は、満面の笑みで近藤と話す少年を見た。
栗色の髪に翡翠の瞳。
人好きのする笑顔は何とも無邪気で、何だか目が離せない。
思わずじっと見つめていると、不意に目が合った。
「で、近藤さん。後ろの子は誰ですか?」
びくっと体が強張る。
「おぉ、この子はだな!今日から内弟子として引き取るようにした子だよ」
さぁ、と近藤に背中を押された真尋は、前のめりに沖田の前に出る。
「沖田惣次郎です。君は?」
頭上からの声に見上げてみれば、先程の笑顔を浮かべたままの沖田。
しかし――目が笑っていない。
それに気付いた真尋は、底知れぬ恐怖感を抱く。
「…高崎真尋です」
ペコリと頭を下げながら思った。
(どうしてこんなに態度が違うんだろう…)
〜・〜・〜
「――でそこの引き出しの二段目に茶葉が入ってて、その棚に急須」
「は、はい」
あれから真尋は、惣次郎から内弟子としての仕事の説明を受けている。
彼の説明は簡潔でとても分かりやすいのだが…、
怖い。
別に何かされたり言われたりした訳ではないのだが…。
何というか。
視線が痛い。
顔は終始笑顔のままなのだが、先程と同じく目が笑っていない。
何かを見極めるようにこちらを見る瞳は、刺すように鋭く思わず身が竦む。
「あ、あの沖田さん!」
耐えきれなくなり、声を掛ける。
「…何?」
彼の声色は怒っているような、困っているような、どこか不機嫌なもので。
何となく萎縮してしまいつつも、尋ねてみる。
「あの、俺何か悪い事しましたか?もしそうなら教えて下さい」
「…何でそう思うの?」
声色そのままに彼は聞き返した。
「いや…俺と会ってからずっと、堅く……怖い表情をしてらっしゃるので…」
後半部分は尻すぼみになってしまった。
怖いからやめて欲しい、とはどうしても言えなかった。
どれくらいの沈黙だろうか。
何も答えない彼に、先程よりも気まずくなった空気。
(聞くんじゃなかった)
と後悔し始めた真尋は、ただ視線を泳がしていた。
そんな沈黙を破ったのは彼だった。
「別に怒ってる訳じゃないよ」
さっきとは変わって、少しの柔らかさを孕ました声に、真尋は驚く。
「じゃあ何故ですか…?」
が、そんな問いには答えず、彼は真尋に背を向ける。
「あ、沖田さんどこに…」
「君はもう部屋に戻ってなよ。さっき教えたでしょ?」
そう言うと彼は、部屋から出ようとする。
そして思い出したかの様に、告げた。
「僕達同い年なんだよね?さん付けは嫌だよ、真尋くん」
そうして彼は出ていってしまった。
(何て呼べばいいんだろう)
惣次郎がいないことで気の緩んだ真尋は、へたりと座り込む。
意味の分からないまま去っていった彼だが、とりあえず呼び方は変えなければ。
それだけは真尋の中に強く残った。
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