協力者
「あ、真尋お風呂空いたよ」
「分かった〜」
私がこの試衛館にやってきて一年がたった。
最初の頃を考えると、本当に馴染んだと思う。
近藤さんや、源さんは相変わらずの優しさで、土方さんも変わらぬ眉間の皺の寄りようだ。
惣次郎との関係も至って良好で、毎日共に仕事をこなし、剣術に関しては互いを高め合っている。
性格や好みも似ているらしく、よく悪戯をしたりして土方さんに怒られている。
近藤さんらには「双子のようだ」と言われるし、土方さんには「惣次郎が二人に増えた」などと言われる程度には、仲が良い。
毎日が本当に楽しくて、大きな悩みも無く過ごしていた。
少し前までは。
今の私は、いずれ来るとは分かっていたが、いざ来るとどうしようもなく途方に暮れてしまう悩みを持っていた。
風呂に入るため脱衣場で帯をとく。
稽古後の汗を流すためだ。
惣次郎が先に入っていた。
……私はここに来て、誰とも風呂に入ったことがない。
背中に傷がありそれを見られたくない、という理由で一人で入り続けている。
――勿論嘘だが。
脱いだ着物を畳み、籠に入れる。
ふと、自分の体を見て大きく溜息をついた。
私が風呂に一人で入る理由。
それは私が――女、だから。
性別のことは誰も知らない。
当然のように、男で通っている。
聞かれなかったから、男と思われてるから……と言わない理由はいくつでも挙げられる。
でも、何より。
幼少の頃の記憶が無い自分は、「女の子」の自分を知らない。
覚えているのは男として自分を育てると言う両親と、性別は隠し通すという約束。
男の子で過ごした時間が大半の私は、正直女の子らしい部分が無い。
しかし、いくら中身が男に近くても、体は女な訳で。
「はぁ…どうしよ」
最近、胸が膨らんできた。
外からまだ分からない程度だが、脱げば分かってしまう。
これは早急に何とかしないといけない。
「普通はサラシ…を巻くんだよね?」
サラシ、サラシ、サラシ…。
ど、どうしよう!!入手方法が無いよ!?
誰かに「サラシが欲しい」何て言えば何聞かれるか分からないし、かと言って自分で入手出来るものでもない。
私は本当に悩んでいた。
だから。戸が開かれるまでその人の気配に気付くことが出来なかった。
「真尋〜!着替え持ってきたわ…よ…!?」
咄嗟に胸を服で隠すが、一瞬遅く。
振り返ると大きく開かれた二つの相棒によく似た瞳。
惣次郎のお姉さん――沖田ミツさんがいた。
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