6−2
「どういう訳か教えてくれるかしら?」
あの後何とかミツさんが大きな声を出すのを阻止し、事情は説明するから、と説得。
私の部屋で待っててもらうことにして、素早く入浴をすまし、今に至る。
ミツさんは惣次郎のお姉さんで、よく惣次郎の様子を見にこの試衛館に出入りをしている。
近藤さんや土方さんとも親しいらしいけど…どうも二人とも尻に敷かれてる感が否めない。
快活でいかにも江戸の女、という彼女は、私のことも何かと気にかけてくれていて、「お姉さん」がいたらこんな感じなんだろうなぁ…と思う。
そんなミツさんにバレたのは幸いと言うか不幸と言うべきか迷うのだけれど、上半身を見られた以上誤魔化すことは出来ないので、私は男装の理由だけを話すことにした。
「両親との約束なんです」
「約束?」
自分の一番古い記憶は、両親に男として育てると言われたときのこと。
理由は分からないこと。
私自身女という自覚が無いこと。
――絶対に女だと人に言わないと約束したこと。
ミツさんの顔からは何も感情も読み取れない。
「それが俺のためだ、と両親は言いました。だから…皆さんには黙ってたんです」
すいませんでした、そう告げて私は手をついて頭を下げた。
ミツさんは何も言わない。
そんな沈黙が怖くて私は頭を上げることが出来なかった。
正直…このことを話すのは本当に胸が痛んだ。
皆を欺きここにいることに後ろめたさがあるのは当たり前のことだが、それよりも。
私が女であることを知った彼らの態度の変化が怖かった。
剣術だって出来なくなるかもしれない。
もしかしたらここにいれなくなるかもしれない。
そうなったら私は……多分生きていけないないだろう。
それ程までにこの場所は私の中で、大きくなっていた。
私は込み上げた涙を堪え、唇を噛む。
「顔を上げなさい、真尋」
「………」
いつもと変わらない口調で、ミツさんが口を開く。
それに少し驚きながら、私はゆっくり頭を上げた。
「話は分かったわ」
目に映ったのは、優しく微笑むミツさんの顔。
私は驚きを隠せない。
「今は他の皆に言うつもりは無いのよね?」
「はい…。いずれは必ず、と思いますが…今はまだ…」
私の言葉を聞いたミツさんは、何か悪戯を思いついたような笑顔で言った。
「よし!それならこのミツ姉さんが一肌脱いであげよう!!」
「は…?」
「だから〜、私が真尋が男の子として居れる様に協力してあげるって言ってるの!」
いや、ますます意味が分かりません。
そう私が思いっきり眉を寄せても、ミツさんは完全にどこ吹く風だ。
「まずはサラシよね。待ってなさい、すぐ持ってきてあげるから」
そう言うとミツさんは、すぐ立ち上がり部屋から出ていってしまう。
「えーと……」
これはどういう事なのだろうか。
どうやら黙っていて貰えるらしいが……
「絶ーっ対面白がってるよな!?」
あの嬉々とした顔!面白いおもちゃを見つけた時のような……惣次郎そっくり!
これからどうなるの!?
と私が一人ごちゃごちゃと考えていると、サラシを持ったミツさんが帰ってきた。
「はい!これ!巻いてあげるから早く脱ぎなさい!」
「えぇ!?」
ミツさんは入ってくるなり、私の着物を脱がそうとする。
私は自分で脱ぐから、と何とか手から逃れた。
ミツさんがサラシを巻いてくれる。
「う"…」
……かなり苦しい。
「慣れるまでの辛抱よ!」
普段少々着崩して着物を着ているので、ミツさんは本当にぎりぎりの所からサラシを巻いてくれた。
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