7−3



「あ、そう言えば山南さん!貸して貰ってたやつ読みましたよ!」
「もう読んだのですか。真尋くんは早いですね」
「お、なんだ真尋。また読書か?」
「今回は読書っていうか和歌集?左之さんも読む〜?」
「俺がそんなの読んでも分からねぇよ」

割と読書は好きな方で、昔から私は山南さんに本を貸して貰っている。
門人の中で一番の論客でもある山南さんは本当に物知りで、私や総司に剣だけでなく、民話など寺子屋よりも面白いことを教えてくれた。

「真尋が読書っていつ見ても慣れねぇよな〜」
「…平助ぇ、ちょっと後で手合わせしようか?」
「冗談だよ!!刀に手かけんな!」
「僕は新八さんが実は政治馬鹿って方が違和感あるけどな〜」
「なんだと、総司!馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」
「はは、違いねぇだろ」
「お前らが興味無さすぎるんだろ!!」
「うるせぇぞ、新八!!」
「まあまあトシ。今日は花見なんだから…」

総司の意見には全面的に賛成だ。
あの飲み食いと剣術しかない筋肉馬鹿の新八が、実は政治に詳しい…なんて事が発覚した時は本当に驚いた。

「おい真尋…。全っ部聞こえてるぞ……!」
「あれ?どうしたの新八。そんなに震えちゃって」
「僕らが新八さんをどう見てるか知っちゃったんだよ」
「〜〜近藤さん!あんたこいつらの教育間違えてるぞ!!」
「……そいつは否定しねぇ」

ぼそっと呟かれた土方さんの言葉は、しっかりと耳に入った。

「でもよ〜真尋なんかが読んでもタメになるのか?」
「…平助はそんなに俺と手合わせがしたいか」
「真尋。ここは花見の席だ。殺るなら向こうでやれ」
「一くん!??!」
「真尋くんは昔から記憶力がずば抜けてますからねぇ。知識を面白いくらいに吸収する……打てば響く子ですよ」
「聞いたか!?平助!!」
「う…」

あの山南さんに褒められて機嫌の良くなった私は、総司の袖を引っ張り、大きく右手を挙げた。

「そんな俺と総司には現在愛読書というものがあります!」
「お、なんだなんだ?」

その一言だけで総司は気付いたらしく、いつものようにニヤリと笑う。
そして同時に口からでる言葉は、一寸違わぬものだった。

「豊玉発句集!!」



〜・〜・〜


宴もたけなわの頃、私達はいつも同じ話をする。

いつか皆で大きなことをやりたい。
近藤さんはこんな所で小さく納まっていい人じゃない。

近藤さん自身も次々と起こるこの日本を揺るがす事件に、多大な関心を寄せていた。
正直私は政治や思想なんてものはよく分からないし、興味もない。
ただ、近藤さんの役に立てればいい。
それは総司も同様で、この話はいつも一歩引きながら聞いていた。



そんな私達の浪士組への参加が決まったのは、九ヶ月ばかり先のことだった。

- 34/45-

*前 | 次#

戻る/しおり
ALICE+