覚悟



文久三年一月末。
一くんを除いた私達八人の試衛館の面々は、将軍・徳川家茂の上洛に際しての将軍警護の名のもと、幕府から募集のあった浪士組への参加を決める。
実際に京へと出発するのは数日後の二月に入ってからだ。

浪士組は腕に覚えがある者であれば、犯罪者であろうと農民であろうと、身分・年齢問わず参加出来るものであり、「武士」を夢見ている近藤さんや土方さんらにとっては願ってもないものだった。

勿論私には近藤さん達みたいに武士になりたいなんて夢は無いし、幕府も将軍もどうでもいい。
京はとても物騒だと聞くし、このご時世、曲がりなりにも幕府の組織として行くのだから、きっと平和なものにはならないだろう。
もしかしたら人と斬り合いになるかもしれない。
……それでも、この浪士組への参加の中で近藤さんの役に立つ事が出来ればいい、そんな事を密かに思っていた。

そんな時だった。
夜にひっそりと話す近藤さんと土方さんの話を聞いたのは。


〜・〜・〜


何となく寝付けなくて、お茶でも飲もうと台所に行こうとした時だった。
部屋から聞こえた話に思わず足を止めた。

「なぁ近藤さん…。今回の話だが……総司と真尋は置いていった方が良いんじゃねぇか?」

「!!」

それは私達の浪士組への参加を渋っているらしい土方さんの声だった。
そういえばこの話を聞いてすっかり乗り気になった私達に、土方さんはあまりいい顔をしてなかった様に思える。

「…何故そう思う?」
「あいつらは、良くも悪くもまだ子供だ。確かに剣術は抜きん出てるが…ただ純粋に剣を学び、あんたを慕ってる」
「…………」
「京は江戸みたいに温い所じゃねぇ。むしろ物騒すぎる。斬り合いなんざ珍しくねぇらしいじゃねぇか。そんな所に連れていってみろ。あいつらは白にも黒にも染まるぞ」
「…だがそんな理由であの子達が納得する訳ないぞ。大体年下の平助はどうなる」
「平助は多分もう覚悟を決めてるよ。そんな瞳をしてる」
「それを言うなら総司も…だと俺は思うがな」

近藤さんの言葉に身動きが取れなくなる。
私だって、京に行けばそういう事もあるだろうという事ぐらい分かっている。
分かって、いるんだ。
私はただ――

「まぁな…しかし、真尋は迷ってると思うぜ」

そう、迷っている。

「あいつは多分頭じゃ分かってるが、心が決まってねぇ」

土方さんの言葉は私の心を全て表したものだった。

「そんな奴がいても役には立たねぇ。だから近藤さん。俺はせめて真尋だけでもここに置いていった方が良いと思うぜ。道場のこともあるしな」
「そう……だな。だがトシ」

それ以上は耳に入ってこなかった。
私はただ唇を噛んだ。
…そうしてないと、涙が零れるから。
置いていった方がいい。
それは確かにトドメの一言だったけれど、それ以上に。

『そんな奴がいても役には立たねぇ』

この言葉が私に深く突き刺さった。

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