お城の上で輝く月に
王子様の第一印象は優しそうな人。クルクルとした金色の髪は優しげな印象で、目は退屈そうだったけれど、大きな身長は包容力がありそうだなって。遅れてやってきた私に手を差し出す王子様は正に理想の人だった。
ゴーンゴーン
十二時の鐘の音に私はハッとする。小汚い姿を見せたならいくら優しい王子様でも幻滅するだろう。
「ごめんなさい」
「ぇ?」
腰に当てられていた手からするりと抜け出し、階段を駆け下りる。ガラスの靴を落として行けば、彼が見つけてくれるのではと少し考えたがあの人の幸せを考えると、そんなことはできなかった。
馬車に駆け込み、直ぐに発車させる。後ろは振り返らなかった。お城の上に輝く月も、見たくなかった。

「みつけた」
義母の命令で街に買い物に出た帰り、両手首を頭の上で捕らえられた。その弾みで買ったものを落としてしまう。卵が絶対にダメになった。
「ちょっと、なにして」
目の前の男に唖然とする。退屈そうな目が私を捉えていた。
「なんで、蛍様、が」
「君、いい度胸してるよね。王子ほっぽって出てくとかありえなくない?」
そう言う彼にあの日の優しい王子様が崩れてゆく。
「え、あの」
「今から結婚式だから」
「え?」
「君に拒否権はないよ。大丈夫、君の義母だとかは呼ばないし。ああいうの嫌いなんだよね」
そういって荷物もそのままに馬車に私を連れて行く彼に、私はされるがままで。いつの間にか、私は王女様になっていたのでした。
めでたしめでたし?
katharsis