誕生日プレゼントは君で
誕生日を特別に祝って欲しい、なんて思わない。けど。
好きな子におめでとうの一言を言ってもらいたいのはおかしいだろうか。

「風邪?」
「ええ、ごめんなさいねえ」

そういうのは名前の母で。いつものように学校に行こうと迎えに行けば、玄関から出てきた彼女の母が僕にそう言った。
風邪、か。
僕はすこしイライラしながら、わかりましたと伝えて学校に向かう。首にかけていたヘッドフォンを耳に当てる。ウォークマンから流れる音楽を聴きながら、そういえば登校中にヘッドフォンをつけるのは久しぶりだなと思う。いつもは名前が騒がしく、僕に話しかけてくる。今日に限って風邪なんて、本当に腹が立つ。

 ∬

「ツッキー!!誕生日おめでとう!」

クラスに入った途端耳に響く声。声の方を向けばそこには山口。今日も相変わらずうるさいね。なんて口に出さないけど心で思っていればクラスメイトが一斉に僕を見る。

「なに、月島くん誕生日なの!?」
「水臭えな言えよ月島ー!誕プレこのエロ本でいい?」
「梨元きもー!つか言ってくれれば誕プレ買ってきたのにー」
「売店で何か買ってこよっかーなにがいいー?」
「つか誕生日なのに悪い月島!ノート見せてくれ」
「ばっか、月島くんがアンタになんてノート見せるはずないでしょー」
「月島ーこれやるよお前好きだろ?」

あいさつも無しにそんな言葉が僕の周りを埋め尽くす。あー面倒臭いことになった。と同時に差し出されるその場しのぎのプレゼント。別にそんなプレゼントなんていらないのに。静かにしてくれればそれでいい。僕の考えなんて誰にも伝わらず、周りは一方的に盛り上がっていた。

担任が入ってきてやっと静まる、と思ったのに。

「お?月島、今日誕生日なのか!」
「…そう、ですね」
「ちょっとまってろ今先生秘蔵のAVを…」
「せんせーきもーい」
「ありえないんだけどー」
「先生それ俺にも頂戴!!」
「月島次俺な!回せ!」
「女子!先生傷つくぞー!」

担任が入ってきたことで、さらにヒートアップし。最終的には授業時間を使用して、男女で対立した僕へのプレゼント合戦になり。
終いには騒ぎすぎ、ということで隣の教室の教師から苦情が入るという始末。
いったい何がしたいんだろうこいつらは。

やっとの思いで今日一日の授業が終わり、部活にいけばどうやら今日の話が先生経由で全学年に広まっていたようで。先輩後輩関係なく、いろんな人におめでとうだとか、お菓子などをもらう羽目になってしまった。なんなの一体。

「ツッキー…大丈夫?」
「…大丈夫に見えるの?」
「ごめん…」

最終的には持ち帰るのも大変な量になってしまったお菓子を、紙袋や部活のバッグに仕舞い込んでなんとか自宅に持ち帰ろうとする。
まったく。こんな日に限って、なんで名前は休んだんだ。三度の飯よりお菓子が好きな
あいつは、基本的に僕がもらったお菓子の八割を横から掻っ攫っていく。もう慣れたけれど。
ったく。と僕はそこで気づいた。ああ、名前にお菓子あげてこればいいんだ。

 ∬

「…なんで蛍がいるの」
「おばさんに入れてもらった」
「…風邪、うつるよ」
「僕はどこかの誰かと違って、馬鹿じゃないから。自己管理はしっかりできてる」

僕の言葉に、うぅと小さくうねりを上げる名前。否定したくともできないんでしょ。

「で、その袋…なに?」
「お菓子」
「!なんで」
「それ、僕に言わせるの?」
「…う、ごめん」

と彼女は気づいたように僕に謝る。まったく謝るくらいなら風邪ひかないでよ。

「でもさ、メールでおめでとうくらい、言ってくれてもよくないの?」
「…だって……もん」
「なに?」
「だから!やだったの!私一人だけメールとか!!そんなのやだったの!」
「…はあ」

なによ、と火照った顔と熱のせいか涙目になった状態で小さく僕を睨む名前。
馬鹿じゃないの。

「んじゃ会いに来てあげたんだから、言うことあるよね」
「…誕生日、おめでとう」
「で?」

僕の出した手に不思議そうな顔をする名前。

「プレゼントは?」

ああ、しまったというように顔を歪める彼女。あらかたケーキでも作ろうとして、徹夜続けてたら体調崩したってとこだろうけど…。

「あ、あのねケーキ作ろうとして」
「できたの?」
「いや、あの風邪ひいちゃって」
「ないんでしょ?」
「う、あ…はい」

ほらみろ。はあ、とため息をつけばビクっと肩を震わせる彼女。まあ予想通りだけどさ。

「じゃ目、閉じて」
「え?」
「プレゼント欲しいんだけど」
「?うん?」
「目閉じて」
「うん」

まったく、人を信じすぎてるっていうか。目を閉じたら何されるかぐらい気づきそうなものだけど。
そう思いながら僕は名前に口づけた。


誕生日プレゼントは君で
 (な、な、なんで)
 (誕生日プレゼントでしょ)
 (え、あ)
 (ああ、あとこれお菓子あげる。僕食べきれないし)
 (!ほんと?!ありがとー蛍!)
 (単純…)
katharsis