少年と出会う
独立暗殺部隊ヴァリアー、その名を聞けば怖がらない奴なんてどこにもいないと思っていたのだけれど。どうやらその考えは違っていたらしい。

目の前の前髪を伸ばした十にも満たないような少年は「うしし」と笑い、手に持つナイフをすっと軌道に乗せた。そうすれば、私の部下は避けようと足掻くが無駄に終わり、額にザクリと一刺。部下の不甲斐なさに溜息をついて、こちらに向かうナイフについたワイヤーを切り落とす。

「ワイヤーねえ」

英語で呟けば少年は嬉しそうに、そして楽しそうに頷いた。

「すげーだろ?」
「神童とでも言えそうね」
「ししし♪だってオレ王子だもん」

更にドイツ語を織り交ぜるが、返事はしっかり返してくる。しかもご丁寧に同国語で、だ。この年で三カ国語は話せるのか、と柔軟に対応して反応する彼に感心する。

「どうかしら、ウチにこない?」
「んーヴァリアー?」

不思議そうに首を傾げる彼は年相応に見えるが、頬に血を飛ばし足元の屍を何のためらいもなく踏むのだから、少なくとも普通の子供ではない。
少年はすこし考える風に唸っていたが、恐らく考えてすらいなかったのだろう。死体を蹴り飛ばす。

「やーだ!だってよえー奴しかいねーじゃん!王子つまんねーの嫌いだし!」

そういってズラリと並べるナイフと、流暢なフランス語。こいつは買い、だ。

「残念。少年といつでも戦えると思ったのに」

ロシア語で話せば、キラリと前髪から僅かに覗いた目が光ったように見えた。一瞬の間の後、少年はナイフをしまい込む。

「…入ってやるよ」
「おっけー。じゃあついてきて」

韓国語で言う彼に日本語を返す。すこし顔を険しくする少年はどうやら日本語が苦手らしい。

「完璧に何ヶ国語話せるの」
「…8」
「英語、イタリア、フランス、中国、ドイツ、ロシア、韓国。日本語は完璧じゃないわね。あとはどこかしら」
「オランダ」

日本語が完璧じゃないことを言い当てられたためか、苦々しげに返事を返してくる少年。まあここまで出来ているなら、日本語だってすぐにマスターさせられるだろう。

「名前は?少年」
「ベルフェゴール」

日本語で言えば、こちらを睨むように見つめてくるベルフェゴールににっこりと微笑む。

「ようこそベル、ヴァリアーへ」

これから暫くは日本語で居る必要がありそうだ。一瞬呆気にとられた表情の後に楽しそうに笑う少年の姿に、少しだけ将来が楽しみになった。



(名前!!)
(ベル、食事中にナイフを投げないで)
(ししし、むり!)
katharsis