敵は私を楽しませるだけの
ベルフェゴールの戦闘センスは圧倒的という他ない。身のこなし、ナイフとワイヤーの扱い方、そしてその殺し方。すべてが他を寄せ付けぬ、その才能は天才ともてはやされるのも不思議じゃないだろう。
惜しむのはその性格か。その圧倒的センスからか彼は人間を玩具としか見ていない節があるように思う。

「…汚いんですけど、ベルさん」

任務で一般人も関係なしにすべてを殺し血まみれになった彼にそう言えば、彼は「ししし」と笑ってこちらに向かってナイフを投げる。足元にあった死体を蹴りあげて、彼のナイフを防げば彼は満足したように死体の始末を丸投げして、帰ってしまうのだった。

ベルフェゴールとの任務で私がすることは主に彼の処理始末、連絡伝言役、そして最悪の事態のフォローだ。最悪な事態とはそれは彼が殺されるということでなく(もちろんそれも含まれるが)、主にそれは彼自身が自らの血を見てしまうことだ。

現に一度、舐めてかかったベルフェゴールが敵の弾丸を掠めてしまいその事態に陥った。目の前で発砲された弾丸を、反射で頬を掠めることに収めたのはさすがヴァリアー幹部だと言えそうだが、頬を触り手についた血を見た後の彼といったら、身体能力が格段に上がり。それと同時にその性格までもが尚更に残虐になってしまうのだから面倒くさいことこの上なかった。

この時は目標を殺害次第、私を殺しに来たので後ろにまわって手刀を落とし事なきを得たがこれからもこれが続くようなら本気で彼を殺すべきだと思う。私の労力的に。

彼の部下が他の幹部に比べて圧倒的に少ないのは、彼のこの覚醒(とでも呼んでおく)によって巻き込まれるからでもあるけれど、それよりも彼が殺してしまうからだ。私も初めて入った時に殺されかけた。その際に手にしていたフォークで止めた結果、なぜか事あるごとにナイフを投げられるようになったのだが。


「名前と本気でヤりあいてー」


報告書を丸投げしたベルフェゴールはなぜかよく私の部屋でくつろいでいる。報告書を書く私の傍らでナイフを弄り、たまに投げてくる。本当に迷惑極まりない。

「なにいってんですか」
「あ、殺し合いのほうな」

なにが楽しいのかわからないが、笑うベルフェゴールに小さくため息。どうやら報告書が終わっても私はしばらく休めないらしい。





悪役に徹せよ
彼が暗殺部隊にいる理由は、自らの欲のため。
katharsis