良い奴、なんて落ちはなし
ああ、そういえば最近よくヴァリアーに任務の度に拉致されてくる奴がいた。フランというその少年は、頭に常に幻覚で作った何か(果物、機械、動物。なんでもありだが、なぜかヴァリアーでは強制的にカエルにされている)を被っている。彼については、まだ任務を組んでいない為、詳しくはわからないがどうやらウザいらしいーー
ベルフェゴールはそこまででその文章が終わっていることを確認すると、ポイとその紙の束を机に放り出した。
「名前ちゃんって私達のことこんな風に思ってたのねー」
「事細かに書かれてたなあ…」
投げ出された紙について、その場にいた幹部はうーんと唸る。
「そういやアイツ、9代目の元秘書か」
どうやらヴァリアー全隊員についての報告書らしきその書類を、ベルフェゴールはまたパラパラとめくる。
初めのページを見る限り、現在のヴァリアーに反乱の危険がないか程度の軽い調べらしい。名前も各々の感想は描いてあったとしても、自らが所属する隊の戦略について書くほど馬鹿ではない。何処から流出して命を奪われるかわからない女ではあるまい。
「ただで情報をやるなんてね」
「ふん、気に食わん」
ブツブツと文句を言うのはマーモンとレヴィだ。まあそれはたしかに、と思うのはベルフェゴール。
「ししし♪いいこと思いつーいた」
嫌な予感がしたのはスクアーロだったが、ベルフェゴールの続けられたアイディアに幹部は全員ニヤリと笑って頷いた。
「…ふふ」
私が持ってきた書類を確認しながら、最終ページで笑う元上司である9代目に小さなハテナを浮かべる。面白い内容などなかったように思うが。
「ありがとう、名前。XANXUSを信じていないわけではないのだけれどね、どうしても周りが煩くてね」
困ったように笑う彼は相変わらずとても優しい。自らに刃を向けた子供を信じるということが、簡単ではないことは私だって予想がつく。「いえ」と首を振る私に彼はまたその目を細めて微笑むのだ。
「それにしても、名前は随分とヴァリアーの面々と仲良くなったようだね」
「…は?」
「まだ16歳なのに大人びていて心配だったんだが、大丈夫なようだ」
そう言って彼は「ヴァリアーに君を移してよかった」といって、書類を私に返す。9代目はその書類をパラパラと見ただけで、決してじっくりと読まなかった。その仕草一つ一つに、息子への愛情が滲み出ているようだった。
「最後のページを読んでみるといい」
そのままカバンに仕舞おうとすれば、そう言う9代目に不思議に思う。最後はフランについて、一言書いて終わったはずだけれど。
「素敵な仲間を持ったね」
最後のページにたどり着いて目を見開く私に、彼はそう言って笑うのだ。
悪役に徹せよ
彼女が暗殺部隊にいるのは命令されたから?