11


私は朝日が昇る前に目が覚めた。
…余り寝れなかったな…。ベットに入って目を瞑った後もこれからどうしようか考えてて…。
私はふあぁ〜っと大きな欠伸をしてベットから起き上がり、小日向さんと辻本さんを起こさない様にロッジを出た。

外に出て空を見上げた。段々と明るさを増してゆく空。青・紫・オレンジ・ピンクと色んな色が架ってる。白い色をした星々が、日の光を少しずつ浴びて隠れようとしてる。

深呼吸を1つして、広場の方へ下りた。やっぱり、まだ誰一人起きてない。私は水を飲もうと、炊事場に向かった。

浄水器の水を飲んで、柱に架けてるスケジュール表をみた。今日の食事当番は氷帝メンバーか。…と言う事は、氷帝生の私もやった方がいいよね。
…よし!先に準備しててやるか!小日向さんや辻本さんには及ばないけど、人並みには出来るんだから!
私は腕捲りをする真似をして、作業に取り掛かった。



***



「あれ?苗字先輩?」
「何してんだ、お前」
「あっ、鳳君に宍戸!おはよ〜」

うちのダブルスペアが起きてきた。宍戸はまだ眠たそうに目を擦っている。

「おはよー。…へぇ〜、いい匂いさせてるじゃねーか」
「でしょ!ちょっと自信作!」
「…これ、先輩1人で作ったんですか?」
「うん!」

自慢気に胸を張って言った私。

「何だ、お前ら。もう準備終わらせたのか。やけに早いな」

樺地君を引き連れた景吾が炊事場に到着。
後はジローちゃんだけか…まぁ、多分寝てるんだろうけどね。

「跡部さん。おはようございます。これ、全部苗字先輩が作ったんです」
「名前?」

長身の鳳君に隠れてて見えなかったのかな?
私はひょこっと顔を横に出し、景吾と樺地君に挨拶をした。

舌のこえた景吾が味見をして、合格点を貰った!!よし、これなら誰に出しても大丈夫だ!
料理は出来たから、盛り付けと片付けは他のメンバーに任せた。
…せっかく頑張って作ったんだから、比嘉中の3人にも食べて貰いたいなぁ〜…よし!
私はお皿に料理を盛り、1人離れのロッジへ向かった。

離れのロッジに近づくと、表で何かをしている木手君を見つけた。
昨日の今日で何か話にくいけど、そんな事言ってられないよね!
私は意を決して木手君の下に向かった。

「木手君、おはよう!」
「ん?あぁ、苗字くんですか。おはようございます」
「これ、私が作ったの。良かったら皆で食べて!…景吾の差し金とかじゃないから!」

料理を差し出しながら釘を刺した。

「まだ何も言ってないんですがね」
「でも、言うつもりだったんじゃないの?」
「まあね」
「でしょ?」

顔を見合わせ、2人クスっと笑った。
なんだ…結構なんでもないな…あんなに意気込んで来て損した気分。

「ふあぁぁ〜〜〜っ、…あぃ?苗字?」
「んあ〜?おぅ、おはよーさん」

起きて間もないのか、眠そうな顔をした甲斐君と平古場君がロッジから出てきた。
今から顔でも洗いに行くのかな?

「2人ともおはよう!」
「ぬーがいい匂いがするさー」

甲斐君が私達の方に向かいながら言った。後ろに居た平古場君も一緒に。

「おっ!美味そうやっし!」
「私が作ったんだ!皆にも食べて貰おうと思って」
「そっか。サンキューな!」

3人とも喜んでくれてるみたい。良かった、持ってきて。

「じゃあ、私戻るね!お皿はミーティングの時に持って来て。それじゃあ!」

私は3人に手を振りながら食堂へミ向かった。

「どうだったよ、永四郎。苗字の様子」
「喋ってはいないようですね。彼女すぐ顔にでるみたいですから」
「…そっか」
「…さあ、甲斐くんと平古場くんは早く顔を洗ってきなさいよ」
「「へーい」」



***



食事も済ませ、ミーティングが始まった。

「今日はまずテニスコートを作るぞ」

食堂の机が並ぶ中央で景吾が話した。

「へぇ…でも材料は?」
「ネットがないと作れないよ?」
「昨日鳳が見つけた破れた網を使う。穴が大きいんで魚を獲るには使えねえがネットならいける。あまりに大きな穴は名前達が塞いでくれた」

佐伯さんと幸村さんの質問に答えた景吾。
私達が網を直したと聞いて、皆口々にへぇ〜っと言って見てくる。
こんなに注目されて、照れ臭くなって顔を見合わせた私達。

「では、手の空いた者はテニスコート作りに参加しろ」

景吾が号令を掛け、皆食堂から去ろうとした時、比嘉中の3人が景吾に近付いて来た。

「テニスコートですか…それならば我々にも利用価値がありますね。いいでしょう、手伝いますよ」
「ほんと?!一緒に作ってくれるの!」

景吾と木手君の話に割り込んだ私を、2人は驚いた顔で見た。

「…それがなにか?」
「ううん!…へへっ、よーし、私も頑張るぞー!」

嬉しい!初めてじゃないかな?比嘉中の皆も一緒になって何かをするの!
私は両腕を上にあげ、広場へ向かった。

「何なんでしょう、彼女」
「フッ」



***



「よし、これからコート作りを始める」

広場の中央に立った景吾が声を掛けた。

「倉庫に巻き取りメジャーがあったよ」
「おぉ、いいものを見つけてきたな」
「そうですね。目測では狂いが出ますから。センターラインはここにします。ポストの位置を測りましょう」
「了解!」

メジャーを持った葵君が木手君の指す所へ走り、センターラインの長さを一緒に測ってる。

「杭と木槌、持って来たぜ」
「ポストはここだ。杭を打ち込め」
「ラインがないんど。どうする?」
「石灰はねえ。足で線を引いとけ」
「へいへい」

甲斐君が指定された場所で杭を打ち込んで、あんなに景吾の事毛嫌いしてた平古場君が、指示通り足でラインを引いてる。
管理小屋から出てきた私は、遠目からその光景を見てニヤニヤしてた。
だって、やっぱり嬉しいよね!コートを作るこの時だけなのかもしれないけど、皆で一緒に1つの物作るのってさ!
ニコッと1人笑って、広場の方へ駆け下りた。

「網とロープ持って来たよ!」
「ご苦労様」
「おい、苗字。ロープはこっちだ」
「はーい!今行くー!」

センターラインを引いていた木手君に網を渡して、甲斐君の所にロープを持って行った。

「おい、ダブルスラインがズレてるぞ。ちゃんと測ったのか?」
「ちっ、面倒くさいやー」
「平古場君、真面目にやりなさいよ。ゴーヤー食わすよ」
「わぁーった、わぁーった。ゴーヤーだけは勘弁」

景吾と木手君に注意されてる平古場君。その光景が微笑ましかった。
あの2人、組んだら結構息あうんじゃないの?

「苗字、何かあったば?」
「えっ、何で?」
「いやー、ずっと笑顔だからいい事でもあったのかと思ってさ」
「へへへっ」
「…ぬーがや、その笑いは…」
「へへへへへ〜」
「…もういいよ」

甲斐君はそう言って、網に繋いだロープを釘で地面に打ち込み始めた。



***



「これで完成ですね」
「急造にしては立派なもんじゃねーか」
「いい感じだな」
「これで練習試合もできますね」

コートの横に立ち、思い思いの感想を言う皆。私もその横に立って、コートを見つめた。

「あぁ、みんなご苦労。こいつは練習で自由に使え。お前もよくやってくれたな、名前。」
「えへへっ、どういた―し――」
「ッ、名前!」

急に目の前が歪み、私はその場に座り込んだ。
…暑さにやられたのかな…昨日、あまり寝れなかったし…。

「大丈夫か?名前」

私の横にしゃがみ込んで、顔を覗き込む景吾。

「うん…大丈夫…ちょっと眩暈がしただけ…」
「この暑さですからね。少し日陰で休んだ方がいいでしょう」
「水分も十分に取った方がいいですよ?熱射病になったら大変です」
「…立てるか?」
「うん、大丈夫…っ」

立とうとしたけど、うまく立てなくて景吾により掛かってしまう。
景吾は私の体をひょいと持ち上げ、食堂へ向かった。

「…苗字さん、大丈夫でしょうか?」
「心配ないだろ。跡部がついてるんだしな」
「………」
「…何してるんですか、甲斐くん。行きますよ」
「あっ、あぁ…」






食堂の椅子に寝かされ、私は水を飲んだ。

「俺は作業に戻るが、お前はもう少しここでじっとしてろ」
「…うん。…ごめんね、景吾。役に立てなくて…」
「誤る必要なんかねーよ。…お前は十分にやってくれた」

そう言って、私の頭を撫でて景吾は食堂を後にした。私は椅子に寝転がって、天井を見た。
…あ〜ぁ、最後に迷惑かけちゃったな…やっぱり体力落ちちゃってるのかな…。
腕を目の上に乗せ、潮風の音を聞いていたら、こっちに近づいてくる足音が聞こえた。

「…寝たば?」
「…ん?」
「あぁ…起きてたか?」
「あっ、甲斐君」

声の主は、私を心配そうに見下ろしている甲斐君だった。

「うりっ。これ、川で冷やしてきたさ」

甲斐君は冷えたタオルを私の目の上にそっと乗せてくれた。

「冷たくて…気持ちいい…」
「そかそか。良かった」
「…ありがとうね」
「いいって。…にしても、ぃやー体力ないんだな」
「本当だね。昔はそうでもなかったのに…」
「まぁ、あれだけ張り切って動いてたら、倒れてもおかしくないけどよ。ちょっと無茶しすぎじゃないか?」
「……だって…嬉しかったんだもん」

私は、タオルを乗せたまま続けた。

「だって…初めてだったじゃない?比嘉中の皆も交ざって一緒に何かをやるのってさ…」
「…苗字」

目を瞑った私の先に、さっきまでの情景が浮かび上がる。
皆で協力して、1つのものを作ってるところを…。

「それが、コートを作る間だけでも…私は嬉しかったんだ。皆が…比嘉中の皆が…仲間なんだって…感じれた…から。だから、私頑張ろうって思って…」
「……ぃやー…」
「へへっ、でも最後に迷惑かけちゃって…どうしようもないね〜」

笑って言った私の頭を、甲斐くんは優しくポンと叩いてくれた。

「わったーは…やっぱり、あったーと仲間ごっこをするつもりはない…」
「……」
「…でも…」

私は目の上のタオルを額に当てなおし、甲斐くんを見た。

「…苗字は……信じてる。…ぃやーは…わったーの仲間さ」

優しく微笑んで言ってくれた甲斐くん。

「甲斐…君…」
「…じゃあ、わん行くさ!…っと」
「?…ん?!」

いきなり顔に赤い帽子を被せられた。

「今日1日、貸しといてやんよ。また倒れられたら大変だからな」
「でも、甲斐君が…」
「わんは大丈夫さ!…じゃあ、ゆっくり休めよ」

そう言って戻って行った甲斐君を、私は見送った。

『…苗字は……信じてる。…ぃやーは…わったーの仲間さ』

その言葉が頭に響く。
…涙が出そうになるくらい…嬉しかった…。
私の事を…認めてくれた…それが…本当に嬉しかった。

でも…それと同時に…怖かった。
私は…私を仲間と呼んでくれた人を…騙しているんだ。
彼等の考えている事とは違うとは言え、騙している事には変わりない。
もし…それが知られてしまったら…そう考えると……胸が苦しかった――。

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