12


食堂で暫く休んで体力も戻り、私は甲斐くんにタオルを返さなきゃと思って洗って、タオルを干した。
この暑さなら1時間もしない内に乾くな!

「おっ、苗字。もう大丈夫なんば?」

声を掛けられ振り替えると、平古場君が立っていた。

「うん!もう元気だよ!」
「そっか」
「平古場君はどうしたの?」
「いや〜、こっちで醤油が切れたから、少し分けてもらおうかと思ってさ」
「あ〜、大丈夫だと思うよ!結構残ってたはずだから」
「じゃあ、少しもらうんどー」
「うん!」

持ってきた入れ物に醤油を移す平古場君。

「そーいやー、苗字」
「ん?」
「最近、裕次郎と仲がいいな〜」
「えぇ?!いっ、いきなり何言い出すの!」
「ぃやーが被ってる帽子がその証拠やんに。裕次郎、それ女子に貸した事ないんどー」
「…確かに…仲悪くはないけどさ〜〜」

甲斐君…女の子に帽子貸したの初めてなんだ。
そう聞いて、私は少し嬉しかった。

「ぃやー、口にやけてるんど」
「べ…別にいいじゃない!!」
「へへっ。じゃあ、そんなぃやーに良い事教えてやるさー!」
「えっ、何?」
「裕次郎情報!」
「………」
「聞くか?」
「…聞いて…あげてもいいよ?」
「ははっ!素直じゃないさー、ぃやー」

笑って、2人食堂の椅子に座って話した。
平古場君から、甲斐君の色々な事が聞けた。
実は左利きな事。ラケットを裏手に持つ事。必殺技の名前。
甲斐君の事をいっぱい知れて、知らなかった部分を知ることが出来てとても嬉しかった。……それに平古場君とも笑って…いっぱい喋れた。
比嘉中の人達と話して、笑いあえてる…その事実が…嬉しかったんだ。



***



苗字、体調戻ったかな?
わんは林の中で見つけたマンゴーを持って、食堂に向かった。

「――あははは!!」

苗字の笑い声。…たーと話してるば?
わんは、物陰から食堂の方をみた。
笑って話してる苗字と……凛…?

「それで……あにひゃーが―――」
「本当?!」
「じゅんにやっさ!」
「あははは!おかしいよ〜それ!」
「だろ?!はははっ!」

…楽しそうに喋ってるな……いつの間に…凛とあんなに仲良くなったば?
きっさまで、辛そうに寝てたのに…あんなに大声出して…笑ってる。
…ぬーが……何で…そんな笑顔見せるば…。

「…あれ?甲斐君?」
「ん?おー、裕次郎!」

わんの姿に気付いて、苗字が大きく手を振ってる。凛も…わんを見てニヤけたちらして。
わんは、ゆっくり2人の前まで歩いていった。

「苗字の様子見に来たば?」
「……あぁ」
「ありがとう!もうすっかり元気だよ!」

あの笑い声聞いたら、元気だって分かるさ。
わんは、苗字にマンゴーを差し出した。

「これ…林で見つけたから持って来た…」
「うわぁ!マンゴー!ありがとう」
「……じゃあ、わん行くわ…」
「えっ?!甲斐君!」
「裕次郎!」

2人のわんを呼ぶ声が後ろから聞こえる。
でも、わんは振り向かなかった。…振り向けなかった…。
あれ以上、あの場所にいたくなかった…?
何でさ…別にいいやっし…苗字が…たーと話そうが……わんには…関係ないさ―。

「…どうしたのかな?甲斐君…」
「……あの裕次郎がな〜」
「ん?どう言う事?」
「いやっ、こっちの話さー」
「?」



***



午前中はあっと言う間に過ぎていって、気が付けばお昼の時間。
あれから平古場君も仲間の下に戻って行った。
…甲斐君…本当にどうしたんだろう……何だか…元気なかったような…やっぱり、帽子借りっぱなしは悪いかな?ミーティングで会ったら、タオルと一緒に返さなきゃね!

今日のお昼当番は立海の皆とお手伝いで辻本さん。
味見をしたがる丸井さんをジャッカルさんが止めても言うこと聞かなくて、でも幸村さんが一言言ったら、2人ともシャキっとするの…。
幸村さん…何だか分からないけどすごい……。

美味しい昼食も終えて、ミーティングの時間。
私は、甲斐君に借りた帽子とタオルをテーブルの上に置いて、彼らが来るのを待っていた。
少しして比嘉中の3人が到着し、ミーティングが始まった。

「今日の作業の振り分けはこうだ」

景吾がスケジュール表と島の地図を広げて言った。

「探索では、少し遠い所まで調査しろ。いいな」

皆、表と地図を見ながら話を聞いていた。

「跡部くん。今回は我々も探索に行きましょう」

木手君がそう申し出た。
おっ!何だか積極的だな!やっぱり、一緒にテニスコート作ったからかな?

「ほう、珍しいな。まあいい、ならお前達には…」
「待ってもらえますかね。探索場所は我々が決めます」

…えっ?
皆も同じ事を思ったのか、視線が木手君に集まる。

「何だと?…それは聞けねえな。こっちにはこっちの予定がある」
「ならば、我々には我々の予定があるという事ですよ」

我々の予定…もしかして…昨日の夜言ってた――。

「なら探索は許可しねぇ」
「でしたら無許可でやるだけです」
「お前ら…嫌がらせをやってるのか!」
「おー、怖ぇ怖ぇ」
「落ち着いて、バネさん!」

景吾と木手君の会話を聞いていて、怒った黒羽さんをなだめる葵君。
…どうして…さっきまで一緒に作業してたのに…。

「木手、余計な挑発はさせるな」
「わかりましたよ。平古場君、後でゴーヤーですね」
「おいおい、そりゃないんどー、永四郎」

景吾の注意を素直に受け止めた木手君。
…平古場君…ゴーヤ嫌いなの?…ってそんな事考えてる場合じゃないよね!

「ともかく、我々は我々で思う所があります。好きにさせてもらいますよ」
「…いいだろう、好きにしろ。ただし、事故に遭った時は責任を取れ。いいな?」
「いいですよ。どういう責任の取らせ方をするのかは知りませんがね」
「それはその時に考える。他に何もなければ、以上でミーティングは終わりだ。…ないな?…よし、解散」

皆、席を立ち各自の作業に向かう。

「景吾!」
「どうした?名前」

木手君達が、景吾の事怪しんでるから、気をつけて!……なんてて言えない…。

「…ううん。何でもない…」
「……そうか」

景吾は私の肩にポンと手を乗せた。

「お前は、お前のできる事をすればそれでいい」

笑って景吾も自分の作業に向かった。
…景吾には、何もかも見通されてるのかな…?
私は胸の前で手をぐっと握り、ヨシ!っと意気込んだ。
…あっ!そうだ、甲斐君に帽子とタオル返さなきゃ!

広場に出ると、探索に出掛けようとしてる比嘉中の皆を見つけた。3人分かれて林の中へ入って行く。
私は甲斐君の後を追って、林の中へ入って行った。

「甲斐くーん!待ってー!」
「…苗字?」

林に入ってすぐ、大声で甲斐君呼んだから、今回は見失わなかった。
甲斐君の下まで走って、帽子とタオルを差し出した。

「これありがとう!とっても助かった!」
「…もういいのか?」
「うん!甲斐君こそ、大丈夫?」
「ぬーが?」
「だって、昼前に会った時元気なかったから」
「…あぁ。別になんもあらんさ」
「そっか。なら良かった」

返した帽子を頭に被り、タオルを首に巻く甲斐君。

「じゃあ、わん行くわ」
「あっ、探索に行くの?」
「あぁ」
「じゃあ、私も行く!」
「…危ないから止めろって。ミーティングでも言ってただろ?それに、ぃやー午前中に倒れたとこやっし」

心配そうに話す甲斐君。でも私は、元気よく答えた。

「大丈夫!もう元気になったし。…それに、甲斐君いるから大丈夫!」
「えっ…」
「ほらっ!行こう!」

私は森へと続く道へ歩いた。

「ちょ、ちょっと……ったく」

私の横に来て、被ってた帽子をまた私に被せた。

「あんまりわんから離れるなよ」
「…うん!」
「ぃやー、返事だけはいいよな」
「…それはどう言う意味かな?」
「ははっ」

私達はそんな話をして、森へ探索に向かった。

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