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「……………」

苗字は苦しみが治まり、疲れて眠ってしまった。苗字の額の汗をタオルで拭く跡部。
…跡部のあんな慌てた姿…初めてみたさ。

「…跡部」
「……なんだ」

わんに背を向けたまま、言葉を返す跡部。

「苗字…何の病気ば…」
「………」
「ただ体調が悪いって訳あらんやっし。あの苦しみ方は…」
「……そうだな。…樺地」
「ウス」
「お前は作業に戻れ」
「ウス」

樺地が部屋を出た後、ゆっくりと…わんの方を向いた。その跡部のちらは…昨日見たちらと同じく曇ってる…。

「…お前には、言っておいた方がいいいかもしれねぇな」
「………」

重い沈黙の後、跡部が口を開いた。

「…こいつは…血液感染の病気にかかってる…」
「…血液…感染…?」
「…あぁ。エイズみたいなものだ…近年発見された病気で、まだ病名も付けられてねえ」

――エイズ。
完治する事がない……あの……。

「治らない……ば…?」
「…いやっ、手術を受ければ完治できる可能性はある…」
「…そっか」

わんは安心して、胸をおろした。

「だが――」

その言葉に…わんは体が止まった。

「時間が掛かって難しい手術だ。……手術が終わる前に、患者の体力が持たず……死んでしまう事が多い。……手術成功率は…――40%」

――40%。
その数字が…どんな事を意味しているか………わんでも分かる。
わんは…胸を何かで刺された様な感覚に襲われた。
その事実を…多分…苗字は分かってたんだろうな…。

『沖縄か………うん。いつか…行けるといいな…』

いつか…海を見ながら言ってた苗字の言葉を思い出した。悲しそうに…遠くを見つめていた苗字のちらを…今でも覚えてる。
そんな事知らずに…沖縄なんていつでも行ける…なんて言った…。苗字は……どんな思いだった……そんな思いを背負って…何でいつも…笑顔でいられたば…?

「こいつは…いつも言ってた――」

目を苗字に向けて、跡部が言った。

「人はいつか終わりが来るものだ。…それが、少し早まっただけ。だから……最期の最後まで…悔いの残らない様に楽しみたい……ってな」
「………」
「…こいつらしい考え方だ……」

優しく苗字の頭を撫でる跡部。
くぬひゃーも……辛いんだ――。

「俺は……こいつの望む事は出来るだけ叶えてやりてぇ。だから…俺はこの合宿の事をお前達に話した…」
「………」
「…今…こいつが望んでるのは…誰の言葉でもねぇ……甲斐……」

わんに振り返って、真剣なちらをさせた跡部が言った。

「…お前の言葉だけだ」

そう言って…跡部はロッジを去った――。
わんは、苗字の傍に寄り、棚の上に乗ってる真珠に目をやった。
これ…わんが――。
真珠を手に取り、跡部の言葉を思い返した。

わんの……言葉――

わんの――気持ち――



***



お願い――あと少しだけ、時間を下さい―

甲斐君と一緒にいる――時間を……――


「……んっ……」
「…起きたば?」

ゆっくりと目を開けた先に飛び込んで来たのは優しく微笑む、甲斐くんの顔。
優しいけど……どこか、悲しげな表情をしてる。

「…甲斐…くん?」
「…もうすぐ夕方だぞ。…余程体、疲れたんだろうな」

そう言いながら、濡れたタオルで私の顔を拭いてくれた。

「……びっくりした……よね?」
「…あぁ」
「あははっ。…実は、私さ……病気でね……」
「…うん、聞いた。…跡部に」

そっか…。景吾、話してくれたんだ。
いきなり目の前で苦しみだしたら、ただ体調が悪いってだけじ、説明つかないよね。
それに…ちょっと自分からは話辛かったから…よかった。
そう胸を撫で下ろした時、ドアがコンコンと叩かれた。
私の変わりに甲斐君が返事をすると、静かに扉が開かれた。

「おぉ!目ぇ覚めてるやっし」
「大丈夫ですか?苗字くん」
「平古場君。木手君」

私は寝てた体をゆっくりと起こした。

「ほれ、バナナ持って来てやったぞ」
「あっ、ありがとう」

平古場君がいっぱい生った1房のバナナを私にくれた。
…こんなにいっぱいは…流石に食べれないな…後で辻本さんと小日向さんに分けよう。

「彼女も目覚めましたし、甲斐君もそろそろ働いてもらいますよ」
「分かってるよ」
「………もしかして、甲斐君。ずっと私に…付き添ってくれてた…?」
「そうそう!裕次郎、ぃやーの事心配だからって作業してても上の空でよー。だから、もう起きるまで傍にいろって言ってやったんさ」
「おい、凛!!」
「事実やっしー」

平古場君の言葉に、真っ赤になって照れる甲斐君。
私の事…心配して、傍に…居てくれたんだ。

「…ありがとうね。甲斐君」
「……別に…わんが、…そうしたいって…思っただけさー」

微笑んだ私の顔を見て、顔を背け言った甲斐君。
でも、髪の隙間からみえる真っ赤な耳で甲斐君の表情が分かる。それを見て私は、また笑った。

「さて、そろそろ行きますよ」
「おぅ!パーティーの準備は大変さー」
「……パーティー?」

背伸びをして平古場君が言った言葉。…パーティーって何の話?

「実は、俺達以外にもこの島を怪しく思う人が居たみたいでね。その人達にも、この合宿の企画がばれてしまったんですよ」
「えっ?!」
「しっかたないから、さっき跡部が皆を集めて、ネタばらししたんさー」

私が眠ってる間に、そんな事があったんだ。

「でよ、辻本と小日向とぃやーは明日船が来るから、それで帰る事になったんばーよ」
「えっ!」
「元々テニスの合宿ですからね。巻き込まれたキミ達はこれ以上我々に付き合う必要はないと言う事です」
「…そっか」

確かに、これ以上ここに留まるのは、危険かも…まだ…離れたくはないけど……仕方ない…でも…だからこそ――

「じゃあ、わったーは準備に行くわ」
「あっ、私も手伝うよ!」

床に足を下ろし、駆け寄ろうとした私の額を甲斐君がツンと突付いた。

「ばーか。主賓のぃやーがする必要ねーよ!」
「苗字はもう少し寝てれー」
「用意が出来たら、呼びに来ますよ」

そう言って、ロッジを出る3人。
最後にドアを出ようとした甲斐君が立ち止まって、こっちを見た。

「今夜……」
「?」
「…今夜、パーティ終わったら見せたいものがある」
「…見せたいもの?」
「あぁ」

優しい微笑み……その笑顔を見ると私まで笑ってしまう。

「…うん、分かった。楽しみにしてる!」
「へへっ。じゃあ、またあとでな!」

甲斐君は元気にその場を去って行った。窓から外を見ると、食堂に皆が集まって何かしてる。
パーティか…楽しみだな…!

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