05


食堂へ着き、私達は合宿所内の調査をする事になった。
さっきは各ロッジをパパッと見ただけだったから、今度は何か使える物がないか探す事に。
私と辻本さんは、他のメンバーの手伝いをしてくれと景吾に言われたので、合宿所の周りを歩きながら、誰か手伝う人はいないか捜していた。

「あれ、ここって」

合宿所から少し離れた所に建っているロッジ。
確か、比嘉中の人が使うって言ってたよね…?

「ん?ぃやーは…」

声に振り返ると、そこには甲斐君がいた。

「甲斐君。甲斐君達もこの辺調べてるの?」
「まあな。…んで、どうしてここにいるば?」
「私も誰かの手伝いしようと思ってさ!甲斐君、これからどこ調べるの?手伝うよ!」
「別に断る理由もないけどよ…跡部達の方を手伝えばいいあんに」
「景吾達はほっといても大丈夫。でもそっちは3人でしょ?手伝わせてよ。皆と仲良く出来ないって言うなら、私とくらい仲良くしよう」
「何だそりゃ。跡部の差し金か?」
「景吾は関係ないよ!私が皆と仲良くしたいだけ!」
「…まっ、好きにすれば」
「うん。好きにする」
「変な奴…」

私は甲斐君を追い掛けて、ロッジの中へ入った。
中は2段ベットが2つに小さな棚が置かれててそれ以外はごちゃごちゃと色々な物が置いてある。
どれも使えないものばかり…穴の空いたバケツ・空のマッチ・アイロン・野菜の種…
榊先生…もっと使える物置いといてよ…。

「…なあ」
「えっ?何?」

無言で作業をしてた甲斐君が私の方を見ていた。

「…さっきは、悪かった。わったーピリピリしてたからさ」

視線をそらして謝る甲斐君。
…やっぱり根っから意地悪な子じゃないんだよね。
でなきゃ、私の事助けてくれたりしないよね?

「別に気にしてないよ。でも、何で皆と仲良くできないの?」
「あったーは全国で対戦する敵だぜ?仲良くなんかできねーさ」
「…そんなものかな?」
「そうそう」
「でもさ…私は1度出会った人とは仲良くなりたいし、知りたいって思うよ。もちろん、甲斐君達の事も」
「…ぬーんち?二度と会わないかも分からんしが」
「…そうだね…でも」

作業をしていた手を止め、私はゆっくりと言った。

「私が生きてたって…多くの人に知って貰えるじゃない?」
「……?」
「…さあ、調査続行しよう!」
「…おう」

甲斐君はそれ以上何も聞かなかった。
その後私が水中眼鏡を探し当てて、甲斐君も喜んでくれた。
これで、少し比嘉中と…甲斐君と仲良くなれたかな?



***



夕方になって食堂に集まった私達は、それぞれ発見したものを持ち寄った。
壊れた無線機・大工用具一式・ランプ灯油・ポリタンク・浄水器・懐中電灯・ドラム缶・調味料各種・釣り道具・山側から貰った米と野菜・それから山菜・キノコ図鑑5冊ずつ。
毎日消費される食料・水・燃料を考え、皆で協力して確保する事になった。

夕食の後のミーティングで、合宿中の各自スケジュールはルドルフの観月さんと柳沢さんが決めてくれる事に。
こんな大事な事決めてるのに、ジローちゃんは寝たままだし…比嘉中の人も参加していない。
自分達で勝手にやるっていっても、どこに何があるかとかは知っておいたほうがいいよね。3人じゃ限度があるし…。

「ねえ、景吾」
「ん?何だ、名前」
「比嘉中の人達、あのままじゃいけないよね?」
「そうだな。…でも、今無理に言っても奴等は素直に聞きやしない。まっ、どうするか考えておく。…お前は心配するな」
「……うん」

今日はそこで解散になった。
夜も更けて来たし、皆ロッジに戻って明日からの活動の為体を休める事に。
でも、私はどうしても比嘉中の人達が気になって、1人はなれたロッジへ足を向けた。



***



3人はロッジの前で話していた。私は1歩1歩、彼等に近づいて行った。

「こんばんは」
「ぬーがや?また来たんば?」
「ん?何ですかキミは」

甲斐君はさっき会ったからそうでもないけど、木手さんと平古場君は嫌そうな顔をする。

「夕食の時顔見なかったから、どうしたのかと思って」
「我々は自活するすべを知っている。心配は無用ですよ」
「だからもう帰れよ」

追い返したがる木手さんと平古場君。…でも、負けないんだから!

「…何かある様ですね。我々に話でも?」
「うん。あのね、こんな状況だしやっぱり協力しあった方がいいと思うんだ」
「ぃやー、まだそんな事言ってるのか?」
「…跡部君の差し金ですか?」
「…ぃやー、跡部と仲いいみたいだしな」
「違うよ!景吾とは従兄弟だからそれなりに仲良いけど、これは私個人で言ってる事なの!」
「アハハ、健気やっしー」

聞く耳持たず、と言った様な反応。それでも私は続けた。

「甲斐君が言ってた様に、確かにここに居る皆は全国大会でライバルだからってのも分かる。この島の環境も沖縄に近いのかもしれない。でも、ここは沖縄じゃないよ?君達の知らない危険とかあるかもしれない。だから情報を共有するのは、悪いことじゃないんじゃないかな?」
「どんな危険があるんばーよ?」
「それは…分からないけどさ…」

言葉に詰まった。でも、榊先生の管理してる施設。
何かあっても先生達が何とかしてくれるけど、何か起こる前に未然に防ぐのも大切だよね。
私が言葉を探している時、木手さんが口を開いた。

「うむ…現状では、協調する必要性を感じませんが、キミの言う事も一理ある。明日からミーティングあけは参加しましょう」
「永四郎…」
「主将がそう言うならいいんじゃねーの」
「本当?ありがとう!」

木手さんって、怖い感じだけどちゃんと人の話は聞いてくれる。やっぱり話してみてよかった。

「わかったなら、早々に立ち去りなさいよ。そうでないと、あちら側で心配されますよ」
「うん。そうだね……ありがとう。話聞いてくれて」
「いえ」
「それじゃ!……明日、待ってるからねーーーー!!」

走ってた足を止め、振り返って叫んだ。
私の振った手に反応はしてくれなかったけど、ちゃんと話が出来てよかった。
そう思って、私は管理小屋へ向かった。

「変な人ですね」
「なんか調子くるうやー、あにひゃー」
「……そうだな」

甲斐は考えていた。
どうしてあにひゃーは、こんなにわったーを気にかけるんだ?跡部達と仲良くしてれば、それでいいあんに。…どうして…こんなに気にするんだ?……だからかな……あにひゃーの事、気になる。



***



管理小屋に帰ると、小日向さんと辻本さんが寝る用意をして待っててくれてた。
ベットは2つしかないから、小日向さんと辻本さんが一緒のベットに寝る事に。
その辺の椅子で良いって言ったんだけど、ダメだって言って私にベットを空けてくれた。

「今日は大変だったね。色々と…」
「そうですね。…お父さん…大丈夫かな…」
「だ、大丈夫だよ!絶対見つかるって!」
「うん…」
「……あー、それよりさ、かっこいい人多いよね!」
「えっ?」

話題を逸らそうと、辻本さんが言った言葉に小日向さんが驚いていった。

「どうしたのいきなり?」
「だってほら、映画とかでよくあるじゃない!無人島に置き去りにされた2人が恋に落ちる話」
「あ〜、あるね!そう言うの。小日向さん、誰かいいな〜って思った人はいるの?」
「えっ?!そ、それは…」
「あ〜いるんだ!」
「そういう辻本さんは?」
「えっ!私ですか?!」

2人とも真っ赤になっちゃって…可愛いな〜!

「そう言う苗字さんは跡部さんとどうなんですか?付き合ってるんですか?」
「えっ?景吾?」

辻本さんがベットから身を乗り出して聞いてくる。

「だって、凄く親しそうじゃないですか!お互い名前で呼び合ってるし」
「確かに景吾とは仲良いけど、それは従兄弟同士だからだよ?そんな関係じゃないんだ」
「え〜、そうなんですか?」
「…じゃあ、他に気になる人居ましたか?」
「気になる…」

気になると言えば比嘉中の3人だけど…それは恋とかじゃないよね。
それに……今は人を好きになっちゃいけない…。

「ん〜いないや」
「えっ!今の絶対誰か居る反応ですよ!」
「教えて下さい」
「…あ〜もうこんな時間だよ!早く寝ないと明日起きれない!さ、2人とも寝よう!」

強引に話を終わらせ、私はベットに体を埋めた。2人も諦めてベットにもぐりこむ。

ランプを消しても、窓から月明かりが入り込んできて明るい。
私は、ベットに寝転びながら窓の外に見える星を眺めていた。
これからの事…それから、比嘉中の3人の事を考えながら――。

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