06


私は窓から差し込む朝の光で目が覚めた。空を見ると、まだピンク架っていて綺麗だ。
目も覚めてしまったし、少しすれば起床の時間だ。私は時間まで散歩をしようと、ベットから降りた。

「う〜ん!朝の空気って気持ちいいなぁ」

ロッジの前で背伸びをして、歩き出した。海の方から潮風が流れて来る。
耳を澄ませば聴こえる波音に誘われて、私は浜辺に降りて行った。

「静かだな〜…こんなに波の音が大きく聴こえる」

寄せては引いていく波に近付いてみる。透明な冷たい海の水が私の足を撫でて行く。

「気持ちいいな〜…それに…綺麗な海。…東京じゃ見れないもんね、こんな透明な海」

海を見てると、人魚姫の歌を思い出す。
人魚姫も、こんな綺麗な海で泡になって消えたのかな…?…消えるって、どんな気持ちなのかな…人魚姫はどんな気持ちでこの世界を後にしたの…その気持ちが知りたくて…私は歌った。人魚姫が最期に歌った…歌を…。

 傍にいたい いつも
 笑ってる 顔見ていたい
 それが私の 幸せ

 この広い 輝く海で
 離れてしまっても

 見ているわ あなたを
 永遠に――

歌い終わって、水平線を眺めていると、後ろから砂浜を歩く音がした。

「ぃやー、起きるの早いな」

振り返った先に居たのは、赤い帽子を被り、胸元にリングを光らせた甲斐だった。

「うん。…朝日で目が覚めたんだ。だからちょっと散歩中。甲斐君は?」
「わんもそんな感じさ。目、覚めちまったから」
「そっか」

私はまた海の方を見て目を閉じた。
こうしてると海からの風が耳を霞めて、まるで海が歌ってる様に聞こえる。

「ぃやー…さっ」
「ん?何?」
「さっき歌ってた歌。何て言う歌?」
「あっ…聴いてたんだ」
「べ、…別に盗み聞きするつもりとかじゃ…」
「ふふっ。別にいいよ!…あれはね人魚姫の歌なんだ」
「人魚姫?」
「知らない?人魚姫が人間の男に恋をして、魔法で人間になるんだけど、その恋が叶わず海の泡になって消えてしまうの」
「へぇ〜」
「その時に歌ったのがさっきのなんだって」
「何か…さ。胸に響く曲だな。」
「…うん。そうだね」

そしてまた、海の彼方を眺めた。青く透き通った、綺麗な海を…。



苗字の歌を聴くのは、これで2度目だ。その歌はわんの心まで響く歌だった。
人魚姫の歌だって教えてくれた。恋が報われず、海の泡になって消えた…。
苗字は悲しいそうに、そう言って海を眺めてる。
わんも苗字の横に立って海を見た。
沖縄と同じくらい青く澄んだ海を…。

「綺麗な青…」
「…そうだな」
「沖縄の海もこんな感じ?」
「まあな」
「いいな〜。こんな綺麗な海を毎日見られるなんて」
「そんないい事ばかりじゃねぇよ。特に海での合宿はつらかった思い出しかないしな」
「そうなの?」
「監督の早乙女って野郎がやたらとスパルタ主義でよ。最後まで潜っていられた奴がレギュラーだってのには参ったな」
「へぇ、大変だね…」
「ま、それでも海自体が嫌いになった訳じゃないしな」
「そうだね。…私も沖縄の海を見てみたいな〜」
「おう。ここに負けない位、いい海だぞ」
「……うん。いつか…行けるといいな」
「………」

そう言った苗字は、人魚姫の話をした時と同じ悲しい顔をしてた。
どうして、そんな顔するんだ?沖縄の海なら、見ようと思えばいつでも見れるあんに…。
どうして…悲しいそうな目で海を見てるんだ…?

「そろそろ皆起きる時間だね」
「あっ、あぁ。そうだな」
「心配すると行けないし、そろそろ戻るね。甲斐君は?」
「わんはもう少しここにいるさ」
「そっか。じゃあ、またミィーティングでね!」

さっきの顔とは違って、笑顔でロッジへ戻って行った苗字。
そう、あにひゃーはいつもあの笑顔だ。
仲間に囲まれて笑ってる。……でも…不意に見せる…悲しい顔。

どうして……気になるんば?
あにひゃーの……苗字の悲しい顔が――。



***



管理小屋に戻ると、小日向さんも辻本さんも起きていた。
2人とも起きたら私がいなかったから心配をしてたみたい。
心配掛けてゴメンね…。

食堂で顔を洗い歯を磨いた。タオルは辻本さんから借りて、歯ブラシは小日向さんがくれた。歯ブラシ2本持ってるなんて用意がいいなぁ〜!
そのまま食堂で朝食を取る事に。今朝は樺地君がご飯を作ってくれた。
一人で良くこの人数の料理を作れたね…さすがだわ…。

食事の後は朝のミーティング。

「何だ、比嘉中の連中はまだ来てねえのか?」
「比嘉中?アイツらも来るのか?」

明らかに嫌な顔をする黒羽さん。そりゃ昨日あんな事言われてるしね。

「ああ、昨日のうちに名前が話をつけておいてくれたからな」
「…いいですけど…トラブルはゴメンですよ」
「心配するな。これ以上悪化はさせねぇ」

不安な顔をする葵君を悟す景吾。
…にしても遅いな〜、比嘉中の皆。約束を破る人達じゃないと思うんだけど…。
私がそう思ったのと同時に、後ろから足音が聞こえた。

「遅くなりましたね。皆さん」
「まっ、話位は聞いてやるさー」
「しゃーねーな」

遅れて来たのに態度がでかい、と言う思いを隠せない皆。特に六角のメンバー。

「来たか。さっさと席につけ。始めるぞ」

そんなのお構いなしに話を進めようとする景吾。比嘉中の3人は、空いてる席に付き、ミーティングが始まった。

昨日言っていた基本スケジュールが決まったみたい。
それを見る限り、作業時間が思ったより短い。自由時間が多くて各自で任せる部分が多い。こんな状況でも、ちゃんと練習をする皆は凄い。全国大会出るメンツだけあって、気の入れ方が違うね。

「でも、どうやって練習するの?」
「基礎訓練ならどこでもできる」
「ランニングだって、立派なトレーニングですしね」
「ラケットとボールはあるんだから、ラケッティングや素振りも出来るしね」

私の問いに宍戸と鳳君、それから山吹中の千石さんが答えてくれた。
何でも練習にしちゃうんだ。私はただただ感心した。

その他、掃除・洗濯・薪割りは各自の判断でやるように指示され、今朝は、この辺りの地形の把握と、景吾・立海の丸井さん・ジャッカルさんが救難信号を作る事に。午後からは本格的な作業を開始するみたい。
よーし、頑張るぞ!!

「それと比嘉中。お前ら、今日はどうするつもりだ?」
「どうするもこうするもねーだろ」
「わったーは勝手にやらせてもらうさー」
「あぁ、そうだったな」

甲斐君と平古場君の言葉にそう返した景吾。

「生き延びる為に最低限必要な事に関してはキミ達に協力しましょう。しかし、それ以外の事については、昨日話した通りです」
「ああ、わかった。ただし、食料調達や探索には協力してもらうぞ」
「いいでしょう。ただし、どこで何をやるかは我々が決めます」
「チッ…だがミーティングには参加しろ。全体の状況を掴む必要がある」
「交渉成立ですね。我々の要求は以上です」

そう言って比嘉中の3人は席を外した。
景吾がフーと溜息を付く。
景吾からしたら、大変だよね。これから何も起こらなければいいけど…。

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