07


ミーティングが終わって、各自作業に取り掛かる。私は景吾達の手伝いをしようと思ったけど、管理小屋で色々してたら行ってしまったらしい…。
待ってて貰えばよかったな。…午前中どうしようかな?
やる事もなくブラブラと歩いてると浜辺で平古場君を見つけた。
…何してるんだろ?

「平古場くーーん!」

浜辺に下りる階段の上から、平古場君を呼んでみる。振り向いた平古場君は、お前かよ〜みたいな顔で私を見る。
階段を軽快に下りて、平古場君の所まで行った。

「なんか用か?苗字」
「用って程じゃないんだけど、上から平古場君見えたから何してるのかと思って」
「別に。縮地法の練習してただけさー」
「シュクチホー?…何それ?」
「あー、…説明するのめんどくさいから見とけ。ホレ、俺の正面だ」
「…ここ?」

言われた通り正面に立つと、平古場君は少し離れた所まで移動した。

「……ほっ!」
「えっ……っわわっ!!」

10m位離れた所にいた平古場君が一瞬にして私の目の前に移動した。

「ビックリした〜!いつの間にこんな近くに?」
「元々沖縄武術の歩行法なんだけどよ。テニスに使えるから練習してるんばーよ。ま、比嘉中の連中は全員使えるけどな」
「へぇ〜凄いね!武術家でテニスも上手いんだ。やっぱり全国出るだけあるね」

まぁなーと自慢気にする平古場君。

「ねぇ、平古場君達は沖縄出身だから海側を選んだの?」
「まあな。海なら食糧を取る勝手も分かるしな」
「そっか。なるほどね〜」
「ただ、仕切ってる跡部の野郎は気にくわないな。こればっかりは失敗したさー」
「あはは。景吾は初めての人に対しても俺様だからね。だから別行動なんだ?」
「そういう事」
「まぁ、分からなくもない。…でも景吾も悪いやつじゃないからさ。仲良くしてとは言わないけど、話だけでも聞いてあげてね」
「はいはい。分かったさー。だからもうアッチ行けー」
「はいはい。練習の邪魔してゴメンね。じゃあまたね〜」

手を振り階段を駆け上がる。上まで来た時に、平古場君に練習頑張れーって叫んだ。
平古場君は手を上げ、シッシッってした。何だよ〜って思ったけど、何も反応してくれないよりずっといい。
私は笑顔で返し、広場の方へ向かった。

「……変な奴やっしー」



***



平古場君と別れて広場を歩いてると、林へ入って行く甲斐君を見つけた。
何か探しに行くのかな?よーし、手伝いに行くか!
甲斐君を追って林に入る。

そんなに離れてはないと思ったけど、周りに甲斐君の姿は見えなかった。
あれ?もう奥まで行ったのかな?…ちょっと捜してみるかな。
少し奥の方まで入ってみたが、甲斐君はやっぱり見当たらない。
…仕方ない、迷ってもいけないし帰るか。
振り返り広場へ戻ろうとした時、胸が締め付ける苦しみに襲われた。

「くっ……はっぁ…ッッ…」

やばい……薬飲んでないから……苦しみが半端じゃない…。
息が……できな…い…。だれ……か……っ…。
私は意識が遠のいて行き、次の瞬間バタッと地面に倒れた――。








わんは林を歩いてた。別に何をするでもない、ただの散歩。地形の把握するのにも調度いいしな。
一通り回って戻ろうと歩いてると、何かが落ちてる。
…違う……あれは……人だ!!
わんは慌ててそいつに近付いた。
胸を掴んだまま横たわってる……苗字。
わんは苗字を抱き上げた。

「苗字?苗字!聞こえるば?!」
「………っ」
「、苗字!」
「……か…甲斐…く…ん?」

消え入りそうな声でわんの名前を言った苗字。顔は青ざめて、額には汗が流れてる。

「どうしたさ?くんな所に倒れて」
「えっ…倒れて……あっ、そうか…」
「?」
「あっ、大した事ないよ。…暑さに目が回っただけだから」
「………」

…大丈夫な訳あらんに。いつも笑ってる苗字が、焦点も定まってない目で、真っ青なちらさせて…。
わんは立ち上がろうとする苗字を抱き上げた。

「っ、…かっ甲斐君?!」
「ロッジまで送ってやるさ」
「大丈夫だよ。一人で歩ける――」
「いいから!…ぃやーは大人しくしてろ」
「……はい」

わんはロッジへの道を歩き出した。
…いなぐってこんなに軽いものば?ちょっと力入れると折れてしまいそうやんに。
……まだ少し息が弱い。顔色は大分マシになってるけど。

「どうして、あんな所で倒れてたば?」
「…ここに入る甲斐君が見えたから、何か手伝おうと思って追い掛けて来たの」
「…ぃやー、変な奴。何でそんなにわったーに付きまとうば?」
「…迷惑?」
「そうじゃねーけどよ。…大抵の奴は避けるだろ?わったー、やまとんちゅー馬鹿にしたのに」
「……甲斐君達は優しいよ」

意外な言葉が帰って来た。
ビックリした。そんな風に言われる何て思って無かった。

「何言うばよ…」
「本当の事だよ?…私が船から落ちそうな所を助けてくれたり、ちゃんと話聞いてくれたり…こうして、心配してくれたり」
「……別に普通やっし」
「でも、私は凄く嬉しい。だから、私も甲斐君達の役に立ちたい。もっと仲良くなりたい…でも、迷惑ばっかりかけてるね」

へへっと笑顔でわんを見上げる苗字。
その顔を見ると、わんも釣られて笑顔になる。
……本当、変な奴さー。



***



林から抜けた時、救難信号を作り終えたであろう景吾が広場にいた。
こんな姿見られたら、絶対冷かされると思ったから慌てて下ろしてもらった。
私達に気づいた景吾がこっちに向かってくる。

「何してんだ?お前ら」
「別に何もしてあらんに」
「私が林で倒れてたのを、甲斐君が助けてくれたの」
「倒れた?」
「あっ、でも、もう大丈夫だから!」
「……そうか」
「じゃ、わん行くわ」
「あっ、ありがとう、甲斐君!またね!」

振り返った甲斐君に投げかけた声に、手を振って答えてくれた。
もっとちゃんとお礼したかったな。

「…お前、本当に大丈夫なのか?」
「うん。…でも、やっぱり薬ないと辛いね」
「やっぱり、薬持ってなかったのか?」
「そりゃ、いきなりだったしね。全部船に置いてきちゃった」
「…やっぱり、お前は――」
「大丈夫!耐えれるから!!」

景吾の言葉を遮って言った。まだ始まったばかりなのに、ここで終わらせたくない。
必死に言う私に、景吾は溜息を付いた。

「………分かった。何とかして監督から薬だけは渡してもらう。だから、それまではあまり遠くへ行ったりするな。俺の目の届く範囲にいろ」
「…わかったよ。……ゴメンね?」
「そう思うなら、ロッジでゆっくり寝てろ。昼のミーティングまで出歩き禁止。……分かったな?」
「……はい…」

景吾は私を管理小屋まで送ってくれた。
ベットに寝転がって真っ青な空を見あげた。

ほんと、心配かけちゃってごめんね……景吾。
でも、まだここにいたいんだ。まだ、……始まったばかりだから…。

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