09


ロッジに着いて、すぐ服を着替えて、濡れた物は洗濯をした。
着替えこれしかないから、早くしとかないと明日着るのがないんだよね〜…。
部屋の中に服を干して、食堂へ向かった。

今日の当番はルドルフの人達。
赤澤さんはカレーが食べたいってずっと呟いてる。不二君は甘いのが食べたいってぼやいてる。柳沢さんは観月さんにこき使われてる。
……ルドルフって何気に個性的な人、揃ってるよね…。

食事も済ませ、ミーティングが始まった。今日、探索に行った人達が報告をする。
景吾が離れ小島を、鳳君が無人の漁村を、観月さんが近くの森でマンゴーを。葵君、丸井君が魚や貝の沢山いる岩場を見つけてきた。
でも…先生達は見つからなかった。
その報告に葵君が心配そうにしてると、明日は捜索範囲を広げるから心配をするな…って、景吾が諭した。

報告も終わって、夜のミーティングは終わった。皆、各ロッジへ戻っていく中、私は食堂の隅に置いてる網に目がいった。

「ねぇ景吾。この網、何に使うの?」
「あぁ、それは鳳が漁村から持って来たものだ。…と言っても穴がでか過ぎて網として使うことは出来ないがな」
「ふ〜ん…」
「跡部君。ちょっといいですか?」
「なんだ、観月」

網かぁ…。網としては使えなくても、何か他の方法で使えないのかな?

「やはり、実際にコートでの練習をしないと、試合感覚が鈍ってしまいます」
「そうは言ってもな。…ネットさえあれば、何とかなりそうだが…」

…ネット……あっ!

「景吾!この網、ネットに使えないかな?」
「ネットに?」

私は網を持って、景吾と観月さんの下へ行った。

「うん!長さ的には調度いいんじゃないかな?穴は、私が後で塞いでおくしさ!」
「…うふっ、それはいい考えですね」
「そうだな。…分かった、お前に任せる」
「了解!」
「でも1人だと大変だろうから、誰かに手伝ってもらえ」
「うん、そうするよ!じゃあ、網持っていくね!」



私は網を抱えて、管理小屋へ向かった。
ベットの横に網を置き、作業に取り掛かろうとしたけど、窓の外に見える真っ黒な海。
私は吸い込まれる様に、足を海へ向けた。

浜に下りる階段の前で、海を見渡した。昼間はあんなに透き通った青をしてたのに今は、何もかも飲み込んでしまうくらい、真っ黒。
浜辺を見渡すと、海に少し入った所に誰か立っている。
あれは――。
階段をおりながら、その人の近くまで行った。
電気はないけど、月明かりが周りを照らしてくれるから誰なのかははっきりと見える。

「甲斐君?」
「ん?あ〜苗字か」
「よく海で会うね。…何してるの?」
「あぁ、これ見てたんさ」
「…どれ?」
「ほら、ここに来て、下見ちみー」

私は甲斐君に呼ばれて、膝下まで海に浸かる所まで歩いた。
甲斐君の隣に立ち、下を向いた。すると、海から緑色の綺麗な小さい光が、沢山広がっている。

「うわぁ〜!凄い!海が光ってるよ」
「ウミホタルって奴だな。貝やエビの仲間の一種が発光してるらしいんだけど」
「…きれい…」
「そうだな。わんもこんなに沢山光ってるのは初めて見たさー」
「…まるで、星みたいだね…」

そう言って、私は夜空に瞬く星を見た。
東京と違って、幾千、幾万と言う星が煌めいてる。

「ねぇ…甲斐君」
「ん?」
「宇宙人って…いると思う?」
「あぃ?…いきなり何だよ」

いきなりの話題に変な顔をする甲斐君。私は気にせず話を進めた。

「だってさ、こんなに沢山ある星の中で、地球にしか人が住んでないなんておかしいでしょ?」
「…まぁ…そうかもな?」
「もしかしたら、地球と同じような世界があって…私達の様な人が住んでるのかも…って考えたら、楽しくならない?」

私は笑顔で甲斐君に言った。甲斐君は笑顔で溜息ひとつ落とした。

「でも…そう考えると…凄いよね…」
「?」
「……この沢山ある星の中で、偶然この地球で出会って、一緒に海にいて…星を眺めてる…」
「……」
「これって…奇跡みたいじゃない?」
「…きせき?」
「うん」

私は甲斐君に体を向け、彼の顔を見上げた。

「私は嬉しいよ。偶然、あの船に乗れた事。だって、そうじゃないと、こうやって甲斐君と話す事も一緒にウミホタルや星を見る事もなかったんだもん」
「……苗字」
「この奇跡に感謝…だね」
「………」

じっと私を見つめる甲斐君。…よく考えたら、私おかしな事言ってるよね?
そう思うと、急に恥ずかしくなってきた。

「あーっ、もう遅いね!そろそろ戻ろうか?」
「あっ…あぁ」

私達は浜に上がろうと歩いた。

「……苗字!」
「ん?」

後ろを歩いてた甲斐君に呼ばれ、振り返る。

「…わんも…ぃやーに会えてよかった」

照れくさそうに言う甲斐君。

「本当に…そう思ってくれる?」
「…あぁ」
「…へへっ、ありがとう。凄く嬉しいよ!」

私が笑うと、甲斐君も笑ってくれる。
…本当に、この出会いに感謝してる。
楽しくて…嬉しくて…そんな気持ちを教えてくれた、この出会いに―。



***



広場まで戻って、私は甲斐君と別れた。
少し咽が渇いたから、食堂で水を飲もうと足を向けた。

「あれ、樺地君?」
「…ウスッ」

一人炊事場でおにぎりを握ってる樺地君。

「そのおにぎりどうするの?」
「跡部さんが…比嘉の…皆さんに」

そっか。比嘉中の皆はお米食べれてないんだよね?

「じゃあ、私がそのおにぎり持って行ってあげるよ!」
「…ウスッ」


3つのおにぎりが乗ったお皿を持って、私は離れのロッジへ向かった。

しおり
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