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 ――僕はその日、多分、とても大事なものを失った。
 鉄の匂いにも、砂埃と汗匂いにも、すっかり慣れてしまった。つい最近までの生活が夢だったのではないかと思う、この地獄。そこに馴染みつつあることは恐ろしいが、適応しなければ死ぬしかない。
 ひゅー、ひゅー、と不格好な音を奏でる幼馴染は、可哀想なことに一命を取り留めてしまっていた。体にいくつも穴をあけているのに、しぶといものである。
 拾いものの黒い鉄を構えると、幼馴染はわずかに口角を上げた。焦点のあっていない目は、人形みたいで気持ちが悪い。しかしおそらく自分も、似たような、生気のない目をしているのだろう。

「……い、っく……せに、」

 何を言っているか、分からない。何か僕に伝えるためだけに死ぬのを踏みとどまっているのだとしたら、余計なお世話だ。早く逝ってしまったほうが絶対に良い。

「っる、せ……っせに……そく、よ」

 ああ、何を言っているのか聞こえない。聞こえない。
 僕が指先に力を籠めると、幼馴染は穏やかな顔で目を閉じた。助けてとか、死にたくないとか、命を惜しむ言葉を吐かないことが少しだけ不快だ。
 幸いにもそういう才能があったらしい僕は、至近距離であることも手伝って、幼馴染の頭を打ち抜くことに成功した。
 死を見るのも、何者かの命を奪うことも初めてではなかった。けれど、幼馴染はやはり特別だった。
 弾と一緒に、僕の魂も抜けてしまったかのようだった。

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