ボツった7-1


 銃撃は、決して、ガヴィが用意した演出ではなかったのだ。
(の後、続いて情報開示するパターンもあった)



 取り調べ時、監視捜査官の様子がおかしいことには気付いていた。緊張や動揺ではおさまらない――おそらく"暗示"。そう結論付けたのはガヴィも時折用いる手段だったからだ。複雑な行動ならばともかく、一アクションさせるだけの暗示ならば簡単に出来る。睡眠不足で過労の人間だ、付け込む隙はいくらでもある。
 暗示された内容や引き金は不明だったが、ガヴィは指先でデスクを叩くことで煽り、"引き起こさせた"。あの様子だと、ガヴィが煽らずとも取り調べ中に発砲しただろう。
 急所だけを避けたのは意図的だが、救急車で搬送中に襲撃されたのは予想外だ。朦朧とする意識で病院からの逃亡プランを立てていれば、何者かの手によって逃亡"させられていた"のである。
 救急隊員になりすました者たちは、意識不明のガヴィを事故の混乱に乗じて奪い、この医師のもとへ押し込んだ。

「かなりチップはずんでもらったから、何日か居てもいいけど。いるものある?」
「……酒」
「まだ駄目だなあ。分かってて言ってるだろ、君」

 十中八九、己を追ってきた"ゲスト"だ。彼らはガヴィを助けたのではなく、殺りやすいように警察の監視下から連れ出したに過ぎない。
 日本まで追ってきたことに加え、"ガヴィは暗示の捜査官に撃ち殺されない"ことを信じて救急隊員になりすまし待ち構えるほど、ゲストはガヴィに執着している。彼らは、どうしてもガヴィと正面切って殺し合いがしたいらしい。
 ガヴィはもう一度ペットボトルをあおった。

「はあ……遅くとも明後日には出る」
「いいよ。抜糸は?」
「自分で出来る」

 ゲストに目をつけられたのは、約一年半前。ガヴィが江戸川コナンを拾った現場が、まさにソレだった。
 セーフハウスの近くがきな臭く、同時に、馴染みの武器商人が訪れるとあれば、様子を見に行くのも自然な流れだった。くだらない暴動やテロで、武器の調達口が減るのは避けたいのだ。
 だが、ガヴィが到着した時には怒号と土煙と銃声で賑やかな有様だった。ガヴィがしたことといえば気を失っていた顔見知りの少年の保護のみ。武器商人は幸いにも無事だったものの、取引相手に死傷者が出たらしかった。
 武器商人の取り引き相手が、ゲストの母体であるアメリカマフィア関係者であったことは後に知った。アメリカマフィアに喧嘩を売られる覚えはないと情報を洗った結果、そこにたどりついたのだ。
 熱心なストーカーは、「ガヴィが武器取引の妨害を手引きした」と思い込み、報復しようと目論んでいるのである。
 完全なとばっちりだが、ゲストが優秀であるためにストーキングを放置出来ず、喧嘩を買うことに決めて欧州を出た。
 報復がとばっちりではなく正当なものだと気付いたのは、ロサンゼルスで顔なじみ(花屋店主)が殺害された時だ。
 きっかけは濡れ衣だったとしても。何の因果か、復讐者がゲストに紛れていたのである。

「酒が駄目なら、パソコンかスマホ貸してくれ。服を買う。ここに届けてもらうようにしていいか」
「お好きなように。そんなにすぐ来てくれるものか?」
「明日明後日には来るでしょ。あと、欲しい薬があるんだが」
「処方箋でいい?現金渡してあげるから、近くの薬局でもらっておいでよ。あ、痛み止めなら言われなくてもあげるつもりだけど」
「ヘレニエン製剤を」
「……ついでにビタミン剤も書いておこうか」
「そうしてくれると助かる」

 ゲストのホームグラウンドから出るためにやってきた日本で、ケリをつけるのもいいだろう。ガヴィの活動拠点ではないが、それはゲストも同じこと。
 服と同じように銃器も手配できればな、とぼやきながら適当に商品をポチる。銃撃戦、来日、記憶障害、狙撃、逮捕、銃撃、搬送と息つく暇もなく、今や身一つだ。トラブルには慣れておりいくらでも対応できるとはいえ、心もとなさはある。
 クリニックを出たら、また忙しくなる。借りを返してもらいに行かねばならない。

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