私だってヒーローになる

「名字ちゃん!大丈夫やった?!!」

クラスのみんなも戦いを終え、ぞろぞろと集まり出した頃
オールマイトは、脳無と呼ばれた化け物と決死の戦いをしていた。

(私はなにも出来なかった…)

ギリッと爪が食い込むほどに拳を握る。


「勝った…」

「…オールマイトが勝った!!」

脳無という化け物を吹き飛ばしたオールマイトはボロボロだった。

視線の先には死柄木と名乗っていたあの男。

(早く…早く帰れ)
未だに恐怖をぬぐえない私は、
少し離れたところからまるで他人事のように見つめていた。

諦めの悪い男、死柄木はあろうことかオールマイトに飛びかかる。
近くにいた緑谷くんと爆豪がボロボロのオールマイトを庇う様に走り出していった。
死柄木の手は、オールマイトから爆豪に向き直る。

「うざいなぁ…死ねよ」

(爆豪!!……なんで…私はっっ!)

無意識だった…
先程の悔しさからか、
名誉挽回のつもりか、
私が行った所でなにも…

そんな事を考えながら飛び出してしまった。
爆豪と死柄木の間に割って入る。

(触れた…今度こそ!)

「名字!テメェなにしてんだ!逃げろ!!」
爆豪の怒号が耳に刺さる。

(できる、私は出来る!…ヒーローになるんだから)

『弔』

「またお前かぁ…」
ポリポリと首筋をかきむしる男。

「お前は…俺のものなんだよ」
グイッと力強く腰を引かれ手首を捕まれた。

「テメェ!!名字から離れやがれ!!」

「うるさいなぁ…」

『ねぇ、弔…』

『私のこと好きでしょう?』

「いいねぇ、その顔そそられる」
ペロっと上唇と舐める男。

オールマイトも他のクラスメイトと、
名字が男に密着しすぎて手が出せないでいる。

『投降しなさい、貴方は負けたの』

「なんで俺が…?俺はお前がいればそれでいい」

ググッと腰に回された手に力が入る。
死柄木の顔が徐々に名字に近づく。

『私が、欲しいの?』
ドクドクと脈打つ心臓。額に汗がにじむ。

「ああ、死ぬほど欲しい」

そう云うか否か、唇を奪われた。
カサリとした唇から伝わる僅かな体温。
何度も何度も角度を替えて、
無理矢理に口を開かれたと思えば
生暖かい舌がねっとりと口内を犯す。

『…っ…ん、とむ、ら』
初めての感触に困惑しながらもそいつの名前を呼んでやると、
ようやく唇は解放された。

「なんだ?」

ハァ、ハァと肩で息をしながら
ギロリと男を睨む。

『もう一度いう、貴方の負けよ。弔』

「…だからなん…っ」

『私の言うことが聞けないの?』

「チッ…分かったよ。」

(よし、ここで先生を…!)

大人しくなった弔から離れ、
オールマイトに合図を送ろうとしたその時。

「死柄木弔、いい加減にしてください。本日は撤退です」

突然黒い靄に包まれた。

「黒霧、待て…名字が」

「だめですよ。彼女はまた今度…」

そういって靄の中に消えて行ってしまった。