Chapter1 〜欠片〜
そして、朽木さんに全て話した。
自分が世界の一部で、魂魄ですらない事。
必要な情報は記憶として勝手に上書きされていく事。
霊圧の事、斬魄刀の事。
途中、運ばれて来た食事を食べて、その味に感動したりしながら。
彼は終始黙って聞いてくれた。
時折相槌を打ちながら。
出来ない事は殆ど無いと言った時、少し彼の瞳が揺れたけれど。
結局彼は何も言わなかった。
「日番谷が成長していたのは…其方の力か」
「うん。口止め料って言って私が勝手にやったんだけど。魂魄安定させて、霊圧を潜在能力値まで引き上げたの。そしたら、体格も変わっちゃって」
「…そうか」
「朽木さんも口止め料いる?」
「…そんなもの無くとも言わぬと言ったであろう」
彼は揺らがない。
簡単に強くなれる、なんて甘い言葉にも。
「…じゃあ、お礼」
「…それは其方に負担は掛からぬのか」
「私に?」
「他者の霊圧を上げるのに、其方にリスクが無いとは思えぬが」
まさか私の心配をするなんて思わなくて、一瞬硬直した。
なんで、この人は。
こんなに優しいんだろう。
「…私は譲渡してるんじゃなくて、魂魄の保有霊力限界値まで引き上げてるだけ。
だから魂魄によって上がり方も全然違うけど、私は同調させてるだけだから、リスクは殆ど無いよ」
「同調…?」
「そう。大丈夫。目、閉じて?」
一瞬眉を寄せたけれど、素直に目を閉じた朽木さんに触れる。
霊圧が漏れないように結界を張り直してから、指先から霊力を流し込んだ。
彼の霊力に合わせて形を変えて、潜在能力値を探って少しづつ霊圧を引き上げる。
急に引っ張り上げると、冬獅郎みたいに意識を失ってしまうかもしれないから。
溢れ出した霊圧を朽木さんが抑え込むのを確認しながら、霊力を徐々に解放していく。
今溢れているのは元々彼が持っていた霊力で。
無意識に、必要とされずに封印されていたもので。
私が使う力はほんの少し。
唯、相手の意識に直接干渉するから本当は結構疲れる。
これは秘密だけど。
限界値ぎりぎりで手を離すと、彼の霊圧は、さっきの倍以上になっていた。
既に抑え込んでいて、それでも抑えきれない霊圧がだ。
私は前と同じ様に半減の抑制装置を作って彼の腕に嵌める。
「っ…はぁ…思うより、厳しい物だな…」
「大丈夫?」
本当なら気絶するぐらい辛いはず。
冬獅郎の時は先に気絶させちゃったから、判断基準にはならないのだけれど。
その後、彼は一刻半は起きなかったんだから、負担が掛かるのは確かなんだ。
「…案ずるな。そこまで柔ではない」
呼吸を整えた朽木さんの額からは、もう汗が引いていた。
けれど、次に反応を示したのは斬魄刀で。
光るそれに目をやっていた朽木さんは、無言で頷いて、刀を撫でた。
「…千本桜も、変化した?」
「…日番谷の時も何かあったのか」
「うん。強くなってた」
自分のことじゃないから詳しく話すのはなんだか気が引けて、大雑把に返す。
彼はそうか、と一つ頷いただけだった。
「…遅くなったが…風呂にするか」
「あ…うん!」
初めてのお風呂はすごく気持ち良くて。
逆上せるまで入ってしまって、朽木さんに怒られた。
髪留めを外した朽木さんの肩に掛かる髪が凄く綺麗で。
さらさらと触って遊んでいたら、布団に引きずり込まれて結局一緒に眠った。
疲れていて直ぐに意識が落ちてしまったから、彼が何か言っていた気がするけれどなんて言ったかはわからなかった。
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