第4話

順番に食事を済ませ、まずはハジメと木ノ葉丸が見張りにつくことになり、ボルトやコウライは早々に眠ってしまった。ミツキやイブキも横たわって体を休めている。リッカはどうしても寝付けなかった。というのも、腹痛が増し、本格的に気分が悪く、吐き気も襲ってきたからだった。
思い当たる節は全くない。風邪をこじらせるような生活はしていないはずだし、変なものを食べた覚えもない。リッカはつらい体を無理やり起こし、ゆっくりとハジメの方へ近寄った。

「ハジメ先生……」

小さな声で呼びかけると、切り株に座っていたハジメがこちらを向いた。

「どうしたリッカ?ちゃんと休まないと明日が辛いぞ。」
「……はい……あの……」
「ん?」

具合が悪い、ということを、どう切り出せばいいかわからなかった。自分の自己管理不行き届きを呪い、恥じた。まさかこんなに大切な任務の途中で皆の足を引っ張ることになるなんて。戦力として役に立てるかどうかもあやしい。ひとりで里まで引き返したほうがいいような気さえした。

「どうした、リッカ?」

しかもそれを、この憧れのハジメに打ち明けなければならないなんて。心底自分が嫌になった。でも、明日からこんな体調のまま長い道を皆のペースについて進んでいくことはきっと無理だ。

「わたし……」

うるんだ目を隠すように俯いた。初めはしばらく黙ってリッカの言葉を待っていたが、やがて立ち上がってリッカに歩み寄り、頭を優しく撫でた。

「リッカ。今日はよく頑張ったな。片手で印を結ぶだけでもすごいのに、ますます早くなってたな。俺はいつかお前に追い抜かれる気がするよ。」

予想外の言葉に驚いて、リッカは丸い瞳でハジメを見上げた。ハジメは少し戸惑ったように息をのんで、リッカから手を離した。まるで触れてはいけないものに触れてしまった時のように。

「……さ、早く寝な。見張りの交代の時間になっちまうぞ。」

そう言われてしまっては、リッカは引き返すしかなかった。
皆が眠っている木のうろへ戻ると、ちょうどサラダが起きてきたところに鉢合わせた。

「あれ?リッカ、どこ行ってたの?」
「うん……ちょっと……」

リッカは立っているのが辛くて、木に寄りかかった。

「ちょっと、大丈夫?本格的に具合悪そうだけど。」
「…うん……眠れば、たぶん、平気だから……」
「……。」

サラダは訝しげにリッカを見据える。そして、リッカに歩み寄り、目を診て、リッカの様子をよく観察し始めた。

「貧血気味ね。めまいに、腹痛?」
「ちょっと…疲れて」
「それと倦怠感ね。……ん?…あ!」

サラダはきゅうにハッとして、リッカの腕を掴んだ。

「わかった!ちょっと、こっちに来て。」
「え?何…?」

リッカはサラダに連れられるまま、雑木林の中へ入った。

「もしかして、リッカ、あんた…生理じゃない?」
「え?」

リッカは目を瞬かせた。

「…ちょっと、待って」

リッカは思いつめた顔で木の裏に隠れ、すぐに戻ってきた。その表情で、サラダは得意げな顔になった。

「なあんだ、心配して損した!それなら問題ないわね。ほら、痛み止めあげる。足りなかったらまた言って。」
「あ……ありがとう」

ほのかに頬を染めて言うリッカも、その顔には安堵が混ざっていた。



「おーい、ハジメ。」
「木ノ葉丸。」

ハジメは、見回りから戻ってきた旧友を笑顔で迎えた。

「どうした?変な顔してるぞ、コレ。」
「え?……ああ、いや、なんでもないよ。」

ハジメは顔を隠すように空を見上げた。黒い空に星が瞬いている。
なぜか、脳裏にはリッカのうるんだ瞳が焼き付いて離れなかった。身寄りがなく一人で暮らしているリッカを、少しでも助けられたらと、妹のように思ってきた。けれど――いつの間にか、大人びた顔をするようになった、と最近思うことがある。

10も年下の少女に、冗談ともとれる話の中で好きだと言われて、年甲斐もなく動揺して。リッカは――同期の中で、いや、里の中でも、美しい子だと思う。だからだろうか、いやきっとそのせいに決まっている。こんなに彼女のことが気になってしまうのは。

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