第6話

リッカに言われた通り、コウライはサラダに謝るため、女子の部屋へ向かっていると、途中でサラダに出くわした。あからさまに驚いたコウライを、サラダはじとりと睨んだ。

「何?」
「あ、いや、なんでここに…」
「木ノ葉丸先生に明日の確認してたの!あんたは大丈夫なの?足引っ張らないでよね。」

サラダの憎まれ口はいつものことだが、今日ばかりは反論できない。コウライはぐっと黙り込んだ。

「…何?どーかしたの?」

いつもなら反論してくるコウライが黙ったので、サラダは気味悪がって疑問を露わにした。

「いや…さっきはその、ごめん、って…」

コウライが勇気を振り絞って言葉にすると、サラダは目をぱちくりと瞬いた。

「…あー!わかった、どーせリッカに、私にも謝ってこいって言われたんでしょ?」
「うっ」
「別にいーよ。あの壁、覗けるよーな穴なかったもん。見ようとしたけど何も見えなかったんでしょ?」

全て見透かされている。コウライは顔を真っ赤にした。それをからかうように、サラダはぺろりと舌を出した。

「残念でした。」

そうして踵を返して部屋へ向かったサラダが、「あ」と足を止めて、またコウライを振り返った。

「でも、リッカはがっかりしたかもねー。これは、イブキの株が上がっちゃうなあ。」
「はあ!?な、なんでそこでイブキが出てくるんだよ!」
「あー、知らないんだあんた。」
「な、なんだよ…?」

サラダがにやりと笑うので、コウライは怯んだ。

「リッカ、昨日から体調悪いのよ。」
「え!?」
「やっぱり気づいてなかったのね。」

口を開けたまま呆然とするコウライの額を、サラダはツンと突っついた。

「ば・か・ね。イブキはちゃーんと気付いて、リッカのペースに合わせて一緒にいてあげたり、マントを交換してあげたりしてたのよ。リッカ、イブキのこと好きになっちゃうかもね。」
「え……え!?なんだよそれ!」
「女の子はそーいうのに弱いのよ。」

ふふん、と笑って部屋に戻っていくサラダの背中を見送りながら、コウライはショックのあまりしばらくそこに立ち尽くしていた。




リッカが部屋に戻ろうとすると、イブキが浴場の方から歩いてきた。風呂桶を持っていて、白い頬が上気している。

「リッカ。」

イブキが立ち止ったので、リッカも立ち止った。

「イブキ、またお風呂に入ってきたの?」
「うん。ちょっと湯冷めしちゃったからな。それに、ここのお風呂、結構有名なところなんだよ。」

リッカは、イブキののんびりとした雰囲気がどことなく好きだった。イブキと話をしていると、焦りや不安が薄まって、冷静に自分の本音が引き出せる気がした。

「リッカは、外に行ってたの?」
「え?」
「雪がついてる」

と、イブキはリッカの髪に触れるか触れないかというほどの優しい手つきで雪を払った。

「風邪ひくよ」

と、責める風でもなく呟きながら。

「……もう平気なのか?」
「え?」
「昼間、顔色が悪かったから」

ああ、やっぱりイブキは気付いてたんだ、と思った。

「うん、もう大丈夫。」
「そう。」

イブキは窓の外に振り続いている飴を見つめた。翡翠色の目に灰色の空が映りこんだ。

「明日は晴れるみたいだよ。」

その言葉で、リッカは心の中から温まった気持ちがした。

「そう…よかった。」

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