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兄はボーダー
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「三輪さんのお兄さんってボーダーなのよね?」
クラスメートが言う。
これは兄が正隊員になってからよく言われるようになった言葉の一つだ。
彼女、三輪彩花は三兄弟の末っ子で高校二年生。
その一つ上、兄の三輪秀次はボーダーと呼ばれる対近界民の戦闘員だ。
クールで容姿も悪くないから見ている分にはかっこいいらしい彩花の兄は、
興味を持つのには十分な人間らしい。
クラスメート、友人、etc…
興味を持った者達が彩花に聞くのは、
お近づきになりたいのか、
はたまた話のネタにしたいだけなのか…
彩花に判断はつかない。
ただ彩花が答えるのは決まっていて、
「そうだよ」
それだけだった。
素直に引く者はこれで話が終了する。
だが、しつこい相手だと話は引き伸ばされてしまう。
「お兄さんって隊長なんでしょ!?
近界民倒した時の話とかそんなのないの?」
「さあ…お兄ちゃん、仕事の話しないから」
「そうなんだ!?」
「うん、機密事項とかあるみたいだから…
しちゃいけないみたい」
「いかにも仕事してますって感じだね。
やっぱりボーダーかっこいいなー」
この流れでどこにかっこよさを感じたのかは知らないが、
それで満足してしまったらしい友人に思わずため息をつきそうになってしまった。
「あ、私お兄ちゃんのとこにお弁当持って行ってくる」
「相変わらず仲いいね〜」
「そんな事ないよ?
お母さんが作り終わる前にお兄ちゃんがさっさと出て行くのが悪いの!」
「それでも普通は届けに行ったりしないでしょ」
「…行ってくる」
「いってら〜」
教室を出て、
友達に見えないところで溜息をついた。
お兄ちゃんが忘れたお弁当を届ける。
それはここ最近、彩花の日課になっていた。
高校生にもなって兄弟が忘れたお弁当を届けるなんてことは普通はしないらしい。
それでも彩花は気が向けば届けに行く。
周りからブラコンだと言われても気にしない。
血の繋がった兄妹なんだから、何が悪いって感じだった。
彩花は自分の兄、秀次のことが好きだった。
だけど、周りが思う以上に彩花は兄と仲良くないし、
兄の事をよく知らないというのが現実だった。
秀次が精鋭部隊で隊長を務めているのも知ったのは友達の口からだ。
なんでもそう。
兄の事を知るのはいつも他人の口からだ。
残念なことに彩花はそれに慣れてしまっていた。
今日は防衛任務が入っているため、
特別早退をする予定だ。
腹は減っては戦はできないとも云うし、
彩花はお弁当を届けに行く。
無論、防衛任務がなくても兄がお弁当を持っていかなければ必ず持っていくのだが…。
三年生の教室に行く。
そして兄のお弁当を渡すために呼ぶ。
「すみませーん、米屋先輩呼んでもらえますかー」
最初は先輩の教室に行くのは緊張していたが、
今では普通に行けるようになっていた。
彩花が兄に用事がある時、米屋の元に行くのも恒例になってしまった。
どうしてこうなったのか…
それは彩花が直接渡すより、
米屋から渡して貰った方が確実だからだ。
どうも兄は家族よりも友達、ボーダーの仲間には気を許しているらしい。
目の前の米屋は兄の友達であり、三輪隊の隊員だ。
一番仲がいいのではないかと彩花は思っている。
「お、秀次の分?」
「うん。いつもごめんなさい…お願いします」
米屋に兄のお弁当を渡す。
これで今日の任務は終了だ。
「陽介先輩。
今日は防衛任務なんだよね」
「珍しーじゃん。秀次から聞いたの?」
「教えてくれたの陽介先輩だよ…」
「そうだっけ?」
けらけら笑う米屋。
この人みたいに兄は笑わない。
…声をあげて笑う姿は想像できないが…
同い年なんて信じられないなーと彩花は思う。
「あの…お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「おぅ、任せておけ」
米屋の顔や言葉に彩花は深々とお辞儀して教室から出て行く。
「今の三輪妹?」
「そうそう。
今日も秀次に弁当持ってきたんだってよ」
「いつも思うんだけど直接、渡せばいいのに何で槍バカ?」
「本当になーアイツも受け取ってやればいいのに」
受け取ったお弁当を見ながら米屋は呟く。
自分達の隊長はまだ近界民への復讐する事に力を注いでいる。
彼が見ているのは近界民だけで、
平穏で過ごすことのできる日常にはあまり目を向けていない。
ボーダーは近界民の侵略から民間人を護る防衛機関。
彼が護っているのは何か。
護らなければいけないものは何か。
早く気付けばいいのにと思った。
20150602
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