境界の先へ
思い出に出会う
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そこに寄ったのはたまたまだった。
公園のベンチに腰を下ろして彩花はぼーっとしていた。
今頃兄はボーダー隊員として仕事してるのだろうか。
いや、シフトの話は聞いていなかったから違うかもしれない。
仕事がない日も、
ボーダー基地に行って訓練とかしていると米屋に聞いたことある彩花は、
今日もきっとそうなのだろうと思った。
それくらい秀次は真面目だ。
「平和だなー」
市民のために兄は頑張っているというのに、
その妹はこうやって持て余した時間を消費するだけだ。
今晩のおかずはなんだろうか。
明日のおかずは――と考えて、
買い物しないといけなかった事を思い出す。
意識の外では子供が楽しそうに遊んでいる声が聞こえる。
「む。でたな、ようかいめ〜やっつけてやるぞー。
おれのともだちでてこい!雷神丸、メダルセットオン!!」
何かのアニメの物真似だろうか。
男の子は楽しそうに叫ぶとそばにいたカピパラに命令する。
こんなところにカピパラがいる事に驚きはしたものの、
目の前で繰り広げられていることは少し微笑ましい。
男の子は一生懸命で相手にして欲しいのかちょっかいを掛けていく。
対する少年…恐らく男の子の兄なのだろう。
どう相手にすればいいのか悩んでいるのか
無言でとりあえず男の子の動向を見ている。
それは、一線引いているような感じもする。
それを見て彩花は随分歳の離れた兄弟だなと思った。
そして、兄もこんな感じで自分を見ていたんだろうなとも思った。
幼い時の記憶でも、
秀次は彩花と距離を取っていた。
遠すぎず近すぎず…
その間に入って兄弟を繋げるのはいつも姉だった。
「うぬぬ…雷神丸、うごくのだあ!」
全く動かないカピパラの方に痺れを切らしたらしい。
男の子はカピパラの背中を押すがびくともしない。
恐らく全体重を掛けているのだろう。
真っ赤な顔で押していると、
今度はカピパラが男の子が押していた方向ではない方へと動き出した。
おかげで勢い余って、男の子はそのまま前に倒れ込んでしまった。
しかも顔面から、だ。
あれは…見ていて痛いのだから本人からすれば凄く痛かったに違いない。
泣きだす前兆か、唸り声が聞こえる。
急な出来事に動揺したのだろう。
焦りと戸惑いが伝わってくる。
そして意を決したのか一歩、また一歩と近づき、
男の子の目の前でしゃがみ込む。
「…よ、……陽太郎。男だろ。泣くな」
「…い、いたくなんか……おれはおとこだからなかないぞ」
まるで自分に言い聞かせるように立ち上がる。
それを見て安堵したのか兄の方が男の子の頭を撫でる。
ちょっとぎこちないけど、なんだか見ていて意外と歳の離れたこの兄弟は可愛いなと思ってしまうくらい、彩花は和んでしまった。
小さく笑うと、兄の方と目が合った。
一部始終彩花が見ていたことを悟ったのだろう。
急に恥ずかしくなったのか顔を赤くして狼狽えている。
今度は兄の様子に何かを察したのか、
痛いのはどこかに飛んで行ってしまったらしい男の子が兄と彩花の顔を交互に見る。
「ん、ヒュースどうした?このおんなはしりあいか?
は!まさかヒュースもともだちしょうかんしたのか!?
おれのすきをつくとは…なかなかやるな」
「違う!!」
そんなに全否定しなくてもいいのに…と思うも残念な気持ちよりは面白い気持ちの方が勝ってて、
彩花の笑いは止まりそうにない。
勿論大笑いする類のものではなく微笑ましいという方で。
逆にヒュースと呼ばれた少年の方はそれに耐え切れなかったらしい。
ここから立ち去るべく、陽太郎に帰るように促す。
「帰るぞ。もうすぐそのなんとかウォッチが始まるぞ」
「おおーもう、そんなじかんか!はやくかえるぞ!!」
ヒュースの言葉を素直に聞いて陽太郎はヒュースの手を引っ張る。
そのまま行くのかと思いきや陽太郎は彩花の方に振り返り謎のドヤ顔を決める。
幻聴だろう。
キラーンという効果音が聞こえてきた気がした。
「このであいがあなたのじんせいにどんなえいきょうをもたらすのか。
それはわかりませんがね」
謎の決め台詞。
恐らく今から始まるアニメだろう。
陽太郎が起こした行動が恥ずかしかったのか、
怖い顔をしてヒュースが陽太郎を抱きかかえる。
「いい加減にしろ」
まるで荷物を抱えるような持ち方に指摘したいところだが、
陽太郎自身は喜んでいるので何も言えなかった。
なんというか…子供のエネルギーは凄いなとちょっと感心してしまった。
20150619
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