信用と信頼
門
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遠征艇の中はいつもより少し賑やかだった。
そう歌川は思った。
慣れている風間隊や冬島隊は別として初参加になる三雲隊そして三輪隊には少し刺激が強いらしい。
主に騒ぎ立てているのは米屋で、
彼に巻き込まれてか菊地原は軽口を叩き、
三輪は静かにしておけと米屋を止めに入っているが…
それが一層拍車を掛けていたと言っても過言ではなかった。
ここに太刀川隊がいたら事態の収拾は諦めるしかなかっただろう。
いや、逆に風間がぶった斬りそうだ。
太刀川を…。
他の者も口には出さないが緊張はしているようで、
修や古寺はその典型だった。
桜花といえばこの騒がしさの中完全に寝に入っており、
ヒュースに関しては遠征ではなく旅行…いや遠足にでも行くかのような雰囲気に肌があわず、
少し冷めて見てた。
言っておくが別に苛立ってはいない。
常識離れの行動は玉狛で慣らされている。
怒るだけ無駄だという事も分かっている。
なので、ボーダーはどこへいってもあまり大差ない。
というのが、ヒュースの印象だった。
「本当、今回はいつもより遠征艇大きいし、
人も多いしで、いつもよりは賑やかだよね。歌歩ちゃん」
「そうだね」
「それにしても鬼怒田さんも考えているのね」
月見は自身が腕につけているアクセサリーを見る。
時は遠征出発前に遡る。
遠征チームが全員揃うこの日に、鬼怒田からある装置が配られた。
見た目はその辺に売ってあるアクセサリーとなんら変わらないが、
わざわざこれを渡すには意味があるはずだ。
前回遠征に参加した時は貰わなかったそれに、
少なくても前回の遠征チームは首を傾げた。
ただ一人、冬島を除いて…。
「鬼怒田さん、完成させたんですか。
いやー本当に仕事が早い」
「遠征の日取りは決まっていたからな。
わしが動いた方が早いわい」
「それを言われるとエンジニア面目丸つぶれなんですけど…」
元エンジニアの冬島はどういう意図でこれが作られたのかも知っている様子。
二人で話すのはいいが、そろそろこちらにも説明を願いたいところだ。
「で、これ何なの?」
「平たく言えば制御装置だな」
「制御装置。何の?」
「そんなのトリオンに決まっているだろ」
いや、知らないし。
内心呟くが、口にしなかったのは鬼怒田の反撃が面倒だったからだ。
別に鬼怒田だけではないが、
エンジニアはこういう専門的な分野になると話が長く、そして熱いのだ。
「遠征先がいくた平和だとはいえ、
トリオン量を計測することは可能だろ。
これはトリオン量の計測正確にできないようにしている」
「ふむ、だから制御装置。か…」
今回の遠征にはトリオン怪獣こと千佳が参加する。
エネドラから得た近界の国の成り立ちからして、
いくら平和だろうと、千佳のトリオン量を見逃すなんて馬鹿なことはしないと考えての対処だった。
だったら遠征メンバーにしなければ…というのは何の意味もない。
それは玄界にいても同じだからだ。
現に、アフトクラトル戦で千佳は狙われている。
千佳にベイルアウトを持たせるのと同時に鬼怒田が千佳を守るために考えていたことだ。
そしてこれは千佳だけではない。
ボーダーの戦闘員皆にも言えることだ。
今回は参加しないが膨大なトリオン量を持つ出水や、
サイドエフェクト持ちの遊真や菊地原…
そして、一度近界民に攫われた桜花は特にそうだろう。
これを身につけていれば、正確なトリオン量が計測できないように上限を下げている。
…という事は、計測されないようにトリオン体になった時の使用できるトリオン量にも制限が掛かるという事でもある。
個人個人に合わせた設定がされているので、
極端に戦えなくなるということはないが、
千佳のあの膨大な量のトリオンはかなり上限を下げて設定されている。
そして戦闘員一トリオン量が少ない修は、その設定は全くされていなかった。
…それはそれでちょっと悲しいものがある。
少しでも皆の足を引っ張らないように頑張ろうと修が思ったのは言うまでもない。
再び月見達は己が身につけているアクセサリーを見つめる。
一通り機能と使い方は聞いて覚えた。
自分達用に設定されたそれは、
ほとんどの者がブレスレットとしてつけている。
服の下に隠してしまえば、男としても気になるところではない。
桜花自身は皆お揃いというところが気に食わなかったが命令されたらしょうがないと、
皆と同じように手首につけ、
できるだけ目立たないように服の中に隠した。
鬼怒田の意図が分からないわけではないが、桜花にとってはただの枷でしかない。
向こうについたら加工して外見を変えるか、
あわよくば外してしまおうと思った。
近界で過ごしたことのある桜花にとって今更なのである。
…そんな事言えば、遊真やヒュース。
そして以前から遠征に参加しているメンバーは皆、同じだ。
「おーい、そろそろ着くぞー」
気が抜ける声で冬島が言う。
遠征艇は宇宙にも似たような空間の中を飛んでいた。
先程と変わらない景色がモニターには映っていた。
それが国の大気圏内とでもいうべきか…
そこに入った瞬間、モニターには風景が映し出される。
目の前には広がる海。
海上に大きな城がそびえ立ち、
そこを中心に複数の島と街が見えた。
やはり島の行き来は船でやるしかないようで、幾つもの船が帆をあげている。
海洋国家リーベリー。
青く綺麗な海に心が奪われる。
それほどまでに綺麗な国だった。
「無事に辿りつけたな。あとは繋げるだけだな」
「繋げる?」
聞きなれない言葉に修は首を傾げた。
その初々しい反応を見て冬島は嬉しそうに言う。
「リーベリーに潜入するために門を開く。
…そのための道を作るんだ」
それを繋げる。と彼等は言っているらしい。
遠征艇のまま潜入してもいいのだがそれではかなり目立ちすぎる。
いくら比較的に安全な国だとはいえ、
堂々と乗り込むには馬鹿だとしか言いようがない。
無駄な争いを起こさないための行動だと説明されれば納得するしかない。
門は近界民(敵)が侵攻してくる象徴であった。
それが他の国に入るために、
自分達が門を開く事になるとは…今まで考えた事がなかったため、
少し妙な感じがしてしまう。
門が開く。
そこにはモニターに映し出された通りの光景が広がっていた。
20150801
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