信用と信頼
質屋
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最初は楽しそうに街並みを見ていた当真達も飽きてきたようだ。
お腹空いたーとか、これからどうするとか口々に漏らし始めた。
だったら帰ればいいだけなのだが…先に二人が帰らないのは団体行動を重視しているからではない。
彼女一人にすると絶対面白い事が…以下省略である。
先程の出来事を思い出してもらいたいくらいである。
どちらかというとシリアスモード真っしぐらだったはずだ。
そんな二人を放っておいて、
地味に街の人と話したりしていた桜花は行き先を決めたらしい。
ようやく動き出した桜花に二人の足が少しだけ軽くなっていた。
「ここは…」
桜花はある店の前で立ち止まった。
なんて書いてあるのか読めない。
近界の文字も日本語で書かれていたらいいのに…なんて事を思う。
「明星さん、文字読めるの?」
「まぁ必要な事もあったからね」
「スゲー実は頭いいとか?」
「どうかしら。中学卒業してないし勉強はできないわよ」
「そういえば…って事はオレの方が頭いいんじゃねぇ?」
米屋が嬉々として言うが寧ろ卒業していない自分と比べるなよと桜花は思う。
「読めないのはいいけど、どんな店かは覚えておいてよ」
「で、ここは?」
「コラリア」
「あぁ、さっきのオッサンが言ってたとこ?」
ここにいない事をいい事に既にオッサン呼ばわりしている。
桜花自身もそう呼ぶ時はあるので、
ここにはそれについて咎めるものもいない。
そのオッサンことハロルドが教えてくれたのは確か質屋のはずだ。
そんな場所になんの用があるのかと思うが、桜花がそのまま入っていくので着いていくしかない。
店に入ると目に飛び込んできたのは物、だ。
とにかくいろんな雑貨や置物…なんだこれはというものも沢山ある。
ここに置かれているのはどれも売り物のはずなのに全くそれを感じさせないくらいに置かれている。
因みに品を雑に扱っているわけではなく、
陳列が雑なだけだ。
これは見るのも一苦労だ。
「面白いものあったら教えて」
「何か買うの?金ないっすよ」
「今から作るのよ」
言うと桜花は店主に話しかけ始めた。
正直、嫌な予感しかしない。が、
彼女がそういうという事は自分の用事が済むまで何かを見つけろって事なのだろう。
しかし見渡してみても、
物、物、物しかない。
いや、質屋だから当たり前の話なんだが。
こうやって見ると自分達の世界と何も変わらないなと思う品がほとんど。
見たことないものはこの国の何か名産だったりするのだろうか。
そのあたりは価値が分からないので見てもさっぱりである。
そんな中で、これを見つけたのは奇跡に近かっただろう。
見覚えのある…特に自分達に馴染み深い物を見つけて思わず声を上げる。
「お、これ、トリガーじゃん」
「当真さん目ざといですね、流石狙撃手」
当真と米屋の会話が聞こえたのか桜花が二人に近寄る。
確かに彼等が言うようにトリガーが三本、陳列されている。
起動しないと中に何が入っているのか分からないのが難点ではあるが…。
本当に何か見つかると思ってなかったのか桜花が感心した様子でトリガーを見る。
「この中からよく見つけたわね。
おじさーん、これ起動したいんだけど」
「え、起動できんの!?」
当真と米屋の目つきが変わる。
玩具を与えられた子供のようなそんな感じだ。
此奴ら分かりやすいなーと桜花は思いながらも、
店主から了承を得、部屋を移動する。
トリガーを起動するということは買う気がある客なら性能を知りたがる者がほとんどだ。
どうやらここは、そんな客のために別部屋が用意されているらしい。
案内された部屋はボーダーの訓練室と同じだ。
当真も米屋もどこか親近感を沸いていた。
トリガーは丁度三本ある。
折角なので一人、一本起動してみることにした。
こういうのはなんだかドキドキするものである。
――トリガーオン――
トリオン体に変わるのに伴い、服装や装備品が変わる。
「やべー当真さん似合わねぇ…!」
「そういう米屋もだろ。お前やっぱ槍だわ」
「斧は小南だもんなー」
お互いの姿を見て米屋がゲラゲラ笑い、当真が感心したように言う。
この辺りで性格というよりは歳の差がでてくるものである。
当真の腰には剣が帯刀され、軍服みないな感じの服装だ。
米屋はどうやら斧のようだ。
どちらもどこかの軍の制服のようだ。
武器だけではなく見た目も違う事から同じ国のものではなさそうだ。
お互い自分のトリガー以外起動したことがないから見た目だけでなく、どこか新鮮な気持ちだ。
最後に二人は桜花の方を見る。
桜花も勿論トリガーを起動し、トリオン体に換装している。
その姿を見て二人は目を見開いた。
「これって…」
トリガーを起動した桜花は隊服に身を包んでいた。
左胸、そして腕にはBODERと書かれている。
見覚えのある制服に二人は思考が停止する。
これが見たまんまならこのトリガーはボーダーのトリガーだ。
桜花は黙って武器を選択する。
どうやらこのトリガーには銃手用らしい。
桜花の懐には銃があることから間違いないだろう。
桜花は銃を構え引き金を引く。
発射されたのは通常弾…アステロイドだ。
他に何か登録されているものはないだろうかと桜花は弾を選択する意志をみせる。
どうやら他の弾も登録されているらしい。
試しに撃ってみると、弾がトリオン体である米屋の方に…
「明星さん、危ねぇって!」
ギリギリのところで、米屋は構えている武器で弾を撃ち落す。
「どうやら誘導弾のようね」
「これがボーダーのトリガーなら明星さん、わざわざ試し撃ちしなくても分かるんじゃねぇの?」
当真の言う通りだ。
ボーダーのトリガーなら自分のトリオン量もそうだが、
使用しているトリガーに登録されているものも分かるようになっている。
それは起動者にしか分からないようになっていて、
情報を視覚化して確認することができる。
だから、何が登録されているのか武器を出して確認しなくてもいいようになっているのだ。
「そのはずなんだけどねー…」
桜花の言葉はなんだか曖昧だ。
他に何か登録されていないか片っ端から出そうと意識してみるができないところを見ると、
他に登録されているものはないようだ。
桜花は部屋の隅で待機していた店主に話しかける。
「このトリガーっていつ流されたの?
分かるならどこの国の物かも知りたい」
「剣のトリガーは一年前、銃のトリガーは三日前、斧のトリガーは今日だ。
国は知らない。言っておくが顧客情報は流さないぞ」
「分かってるわよ。ちなみにそれぞれいくら?」
「剣が1200G、斧が750G、銃が90Gだ」
「え、それ安いの、安くねぇの?」
「流石に遠征で買い物とかしたことねぇからなー想像つかねぇわ」
桜花は悩む素振りをみせ、意を決したようだ。
店主に己のトリガーを渡す。
「これいくらで買ってくれる?」
どうやらそれを質に入れるようだ。
感心したようにその動作を見つめる米屋と当真だが、
当真だけは我に返ったようだ。
ここに常識人がいないからうっかりしていたが、
これは突っ込みをいれなくてはいけないところだ。
「明星さん、何トリガーを入れようとしてるんすか」
「これしか金目になりそうなもの持ってないのよね」
「いやいや、ダメでしょ。そもそもなんでお金なんて必要な…」
言おうとして当真は気づいた。
桜花はこのトリガーを買おうとしているのだと。
確かに平和的に手に入れるなら買うのが一番だ。
だからといってトリガーを売るのは…どうだろうか。
当真は元エンジニアの隊長の姿を思い浮かべる。
緩々して普段ならなんだかんだで許してくれそうだが物が物だ。
冬島が関係なくてもボーダー的にアウトの領域だろう。
「必要経費よ。それに一か月以内にお金を払えば物は戻ってくるし」
「俺達滞在するの五日だけど」
「それだけあれば十分って話よ」
何を根拠に言っているのだろうか。
二人の視線の意味が分かったのか桜花は言う。
「二日後に一般参加OKの武闘会があるんだけど、優勝賞金1万G。
準優勝すれば3000G貰えるわ」
「近界民と闘えるってことか!?
やべっ、楽しそうじゃん!」
どうやら乗り気になってくれたところでトリガーの品定めが終了したのか、
店主が桜花に値段を伝える。
「2500Gだ」
「そ。なら、まずは200Gだけ貰うわ」
言うと必要な分だけ貰い、書類にサインする。
「また、明日来るわ」
「あれ、トリガー買わねぇの?」
「今日は、ね。行くわよ」
三人は店から出ると、
最初のこの街へ入った時のポイントまで戻る事にした。
なんだかんだで、時間は結構経っており、
集合時間が迫っていたのだ。
「あーあ。本当はここから別行動で動きたいんだけど…」
「流石にそれは無理っすよ」
「分かってるわよ」
なんだか面倒な事になってきたなーと桜花は思ったが、
実は時同じくして修達も大変な事になっていたとは、
この時の桜花達は知る由もなかった。
20150825
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