信用と信頼
面倒事
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「言っておくけど、まだ確証は持てないから今日の事は他言無用よ」
質屋から集合ポイントに行くまでに桜花は二人に今回の事を話し始めた。
まずはボーダーのトリガーが質屋に売られていた事についてだ。
起動して確かめた桜花だけでなく、此処にいた者が全て銃手ではないので断言はできないが、
トリオン体への換装、銃トリガーの性能を見ても、
間違いなくボーダーのトリガーだった。
ただ一点、登録されているトリガーの情報が確認できないという点を除いては。
トリガーの選択ができることは桜花自身が確認している。
おかげでハウンドが米屋に向かって飛んでいくという事故が起こった。
それがあの時、桜花が弾を撃った理由だった。
情報が確認できないのは元々確認機能がついていないバージョンのモノなのか、
それとも故意的なのかは分からない。
この事実を当真と米屋に確認したところ二人は知らないようだ。
旧型トリガーの話は冬島に直接確認した方がいいということで落ち着く。
この件に冬島を巻き込むのは仕方ない事だった。
そしてもう一点。
トリガーを買わなかった事についてだが、
これに関して桜花は「運試し」と答えた。
どんなに古いトリガーでも余程の劣悪品でない限り、
100G切って売られる事は早々ないらしい。
そういう時は訳ありで早くなくしてしまいたい場合と、
誰かを釣る時に使うらしい。
後者の場合、店主がグルかどうかという点に関してはまちまちだが、
大抵は依頼として安く売るように指示しているだけで、
その時は勿論本来つくはずの値段との差額が店に払われているため損失にはなっていない。
ある意味、協力者にはなるが、依頼者がどういう意図でそうさせているかは知らない者がほとんどだ。
だから店主を疑うのは時間の無駄だと桜花は考えている。
なので、そこを除外して考えると、
このトリガーを流した人物が何を目的にしているかを考えなくてはならない。
人を釣る時の理由は大体二つ。
一つは何かしらの事情で戦える人間が欲しい場合。
一つは特定人物を誘き寄せたい場合。
現状のままだとどちらかは判断できないので何とも言えない。
「それって自ら危険に晒すって事ですよね」
「そうだけど、何もしないで得られるものなんてこの世に存在しないのよ」
尤もな意見である。
だから桜花は自分が上手く釣られるように店主に「明日来る」と伝えたのだ。
口だけではない。
わざわざ残りのお金を店に預かって貰っているので、
それをより強く思わせている。
偶然だろうが、当真が自分達は五日間しかここに滞在しない事を口走っている。
もしも店主がトリガーに興味を示した人間がいるなら教えてくれという依頼を受けているなら、早い段階で接触してくるはずだ。
勿論、用は済んでいて取り越し苦労の可能性も否めないが、
その時はしょうがない。
だから運試しなのである。
「でもこれ、結構凄い案件なんじゃないの?」
「最初に言った通り確証はないから無暗に困惑させてもしょうがないでしょ。
それに外れた時私が痛い目をみる」
「その自覚はあったんすねー…」
「でも隠していてもバレるんじゃねぇ?」
何せ菊地原がいるんだし。
当真と米屋は思った。
菊地原はサイドエフェクト持ちで強化聴力の持ち主だ。
その気になれば心音で相手の大体の感情が分かってしまう菊地原相手に騙せる自信等二人にはないのである。
(ま、菊地原が任務でもないのに人の心音を聞いたりする事はねーけど)
桜花は菊地原のサイドエフェクトの存在知らないんだなーと呑気に思う二人だ。
教えたところでどうにもならないので、
二人とも口出ししないようである。
ある意味酷い。
そしてもう一人、嘘を見抜くサイドエフェクトを持つ男がいるが、
それに関しては桜花だけでなく二人も知らない。
問い詰められれば既に詰んでいる状況にあることをこの三人は知らない。
無知とは時に残酷だ。
三人は何事もなかったように遠征艇に戻った。
その後は予想通り探索の報告と今後の方針などが話されるはずだったのだが、
どうやら予想通りに事は進まないようである。
「お前らが最後だぞ」
出迎えてくれたのは冬島だった。
時間には少々遅れたがそれはそれで許してほしいところである。
「あれ、他の奴等は?」
遠征艇にいたのは冬島と真木の二人。
他の者の姿はなかった。
今日着いたばかりで状況も把握できていないこの段階で、
皆揃って外出というのは少し考え難い。
「隊長、他の奴どうしたんですか?」
「リーベリー中央部だ」
冬島の言葉に桜花は嫌な顔をした。
他の二人も何かを感じたらしい。
それでもどこか楽しそうにしている。
ある意味つわものだなと思わざるをえない。
「…中央って、あの建物が建っている所っすよね?」
海で覆われているこの国は幾つもの島がある。
その島一つが一つの街として成り立っているのは先程、確認してきたばかりだ。
そしてその中に一つだけ、
海上に建てられていた城があった。
異質というのか、そこだけ特別な何かである事は初めてリーベリーに来た者でも想像できる事だろう。
冬島が言う中央部はそこしか考えられず聞いてみればどうやら当たりらしい。
問題はどうしてそこにいるのかという事だ。
「ちと、面倒な事になってな…」
冬島の説明はまずリーベリーの話から始まった。
リーベリーでは明日から潮祭が開催される。
これは桜花達も街を歩いていて知っているが、
この国主催で四日間行われる。
内容は一日目の開催宣言から始まり、海上パレード。
二日目の武闘会、三日目の波乗りレース、最終日にパレード、そして灯籠流しで締めくくる。
毎年行われているらしいが、今回は少しだけ事情が違った。
今年はこの国の王子が大人の仲間入りという事で政治に関与する事になった。
そのため、今年から潮祭りのパレード等に顔出ししなくてはいけなくなったのだ。
こういう催し物に王族の顔出しはよくある事だ。
今回違うのは、その王子に初仕事とも言える顔出しだが、
どうも今の王族を良しとしない一派が何やら仕掛けようとしているらしい。
率直に言えば王子を祭りに出せば命の保証はしないという脅迫が届いたのだ。
命の危険を考えれば王子の参加を取り消せばいいとかそういう簡単な問題ではない。
脅迫に従えば、王子は政治には向かないと判断されるどころか、
海の王としての気質が疑われ、民の信用を無くす。
反対勢力をつけ上がらせる行為になるというわけだ。
これもよくある話である。
出席したとして問題は王子をどう守るかというところだが…
そこまで話されて今回問題視されていることが分からない三人ではない。
寧ろそれが何で他のメンバーが城に滞在する事になったのかが分からない。
「誰かその王子に恩を売りつけるような交渉をしたってことすか?」
敵もトリガー使いの可能性はあるわけだから、
確かにそれならトリガーを持っている自分達にもできそうな事ではある。
「まぁ、結果的にはそうなるな」
「冬島さん、歯切れ悪いけどなんなの」
歳上に向かってこの態度は如何なものか。
しかし冬島の心が広いというか当真のせいで慣れているというのか、
特に気にする素振りも見せない。
桜花の問いに溜息をついて冬島は答えた。
「実はな、三雲がその王子に瓜二つらしい」
「「「は?」」」
「どうやら風間さん達が探索している最中に偶然王子の従者と会ったみたいでね」
今度は真木が説明し始める。
城にいるはずの自分が仕える王子が街にいるのだ。
それはびっくりしたらしい。
脅迫状が届けられたことを知っている従者は、
少年二人が王子を連れだしているように見えたのだ。
迷いなく斬りかかろうとしたところ逆に風間と遊真の手により返り討ちにされたのだ。
「あれ、話終わったくねぇ?」
「それが、他の従者がそれを目撃してね。
たまたまお忍び中の王子の護衛をしていたみたいで…」
後は察してと真木は言葉を投げた。
つまりはそこで修と、修とそっくりな王子が顔を合わせたわけである。
双方驚いた事だろう。
事情を説明した上での流れだった。
修そっくりな王子が狙われているってことは修も間違われて狙われる可能性はあるということだ。
とりあえず、無関係な民を巻き込むわけにはいかないと城に招待され、
ただいま交渉中らしい。
恐らく王子の護衛を手伝う代わりにトリガー技術をというところなのだろう。
どこまで協力するのか、報酬はどれだけなのか話し合うのに時間が掛かるのはしょうがない事だ。
ただ、協力する事は既に決まっているらしく、
他のメンバーは城の方に行き、これからどうするのか待機しているっていうところだ。
「隊長、当真君達も戻ってきたし、そろそろ行きましょう」
「そうだなー…」
目的の城へ行くための門を繋げようとしているところで、
桜花がストップをかける。
「冬島さん、その前にボーダーのトリガーについて聞いておきたいことがあるんだけど」
「いいけど、ここじゃなきゃダメな事か?」
「そうね。面倒だからここだけで済ませたいわ」
「面倒事には関わりたくないんだが…」
「修の件よりはマシよ」
言うと桜花は簡単に冬島に話し始めた。
質屋にボーダーのトリガーにそっくりなものを見つけた。
登録されている武器を選択して使えるものではあったが、
登録されている武器情報、自身のトリオン量等の情報閲覧ができなかった。
そう伝える。
「以前から近界に遠征に行ってトリガー技術のやり取りを行っていたのでしょう?
それはこちらの技術を模してどれだけ再現できるもの?」
寧ろ情報を提供したのならどのレベルなのだと桜花は質問する。
いつもは飄々とした感じの冬島だが、
その話を聞くと真面目オーラ全開だ。
「元々は近界の技術だからな。再現するのは簡単だろう。
渡したのだってうちのトリガーの基本的部分だ」
交渉で使用するのは今のところ孤月だけであり、
情報の閲覧はできるようになっている。
それだけだ。
武器の選択とかできるようになってはいるが、
特にこちら側から他の武器を登録して渡したりはしていないらしい。
因みに情報閲覧に関しても、
トリガー開発当初から付随していたものだという事も桜花達は確認した。
どうやら玄界から渡ったものではない。という事だけは分かった。
「そうなの。じゃあ、似ているモノがあったとしても不思議ではないのね」
敢えてこういう言い方をする桜花に、
今まで黙って見ていた当真と米屋は感心していた。
冬島の言葉が本当なら、
銃型トリガーや通常弾、誘導弾が登録されているトリガーが発見される事はないはずなのだ。
誰かがオリジナルとして作り上げたのか、
それとも誰かが近界にボーダーの情報を横流しにしたのか。
後者なら大分きな臭い。
ここに戻ってくる前に桜花も言っていたが、
意図的に情報閲覧できない…ボーダーのトリガーのシステムを弄っているとしたらそれにも何か意味があるはずだ。
やはりこれはちゃんと報告すべきことのはずなのに、
桜花は大したことではないみたいだからここだけの話にして欲しいと言い切った。
この人、何を考えているのだろうと思わずにはいられない。
「それにしても質屋にトリガーって…」
真木の呟きに桜花は普通に返事をする。
「戦争の道具だし、平和なところだと生活に苦しい傭兵が売ったりするのよ。
勿論、質屋ならどこでも売れるわけではないわよ?」
「え、そうなの?」
「少なくてもトリガーの価値が分からないと売れないし、
大体、元トリガー使いとか、その道の技術者だった奴とかが店やってる。
トリガー目当てで狙われても、太刀打ちできるように何かしら対策できるようにしてあるわよ。
ま、傭兵とかやってないと分からない部分はあるけど」
この言い方だと根っからの軍人であったヒュースは知らない事は予想がついた。
「で、明星達は何に首を突っ込んでんだ?」
どうやら冬島は流されてくれないらしい。
「好奇心?」
「社会勉強?」
そう答えたのは当真と米屋だ。
米屋が社会勉強と答える日が来るとは夢にも思わなかっただろう。
二人の成績の事等知らない桜花は冬島の表情が意味するところが理解できず首を傾げる。
再度、冬島の目が桜花に向けられるが、
「もう少し探索したいわねー」と呟いた。
冬島は当真、そして米屋を見る。
俺達は明星さんについていくぜーのオーラ全開の二人を見て、
溜息をついた。
「無茶はすんなよー」
冬島からは了解を得られた。
後は城の状況次第だ。
風間達に合流すべく、門を繋げた。
20150901
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