信用と信頼
水面下
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「メガネボーイ、王子様だって?」
「米屋先輩…お願いですからからかわないで下さい…」
風間達と合流した桜花達一行。
最初にやるべきはやっぱり修にちょっかいを掛けることだろうか。
予想を裏切ることなく米屋がゲラゲラ笑いながら修をからかいに行った。
「修、昇格おめでとう。それでこれからどうするの?」
桜花の中途半端なからかいの言葉にどう反応すればいいのか悩む修はある意味律儀なのかもしれない。
桜花達から「今日は特に成果はない」という報告を受けて、
風間から今後の動きを説明される。
冬島から聞いた通りではあったが、
やはり、王子の護衛という仕事を請け負う代わりにトリガー技術を貰うというところで落ち着いたらしい。
護衛期間中はこの城で滞在も許されたらしく、衣食住は確保できたというわけだ。
遊真をはじめとする玉狛はあまり乗り気ではなかった。
…というのも、修がそっくり王子の影武者役をすることになったからだ。
修の身の危険性はかなり跳ね上がっている。
いくら修自身が承諾したとはいえ、はいそうですかと納得できるものでもない。
王子様のスケジュール合わせが始まる。
勿論、敵が接触してくるならどの辺りなのかも予想しながらだ。
そこで誰がどこに配置されるか決めて行く。
皆が皆、王子や修の傍にいるわけにもいかないので、
一般民に紛れ様子を探る必要も出てくる。
都合よく好き勝手に動けるポジションに桜花が配置されたのは、
冬島の協力があってだろう。
ここに来る前に話しておいて良かったと思ったのは言うまでもない。
ひと段落ついたところで、
用意された部屋に男女分かれる。
ベッドがあまりにもふかふかすぎて夢の中に入れば戻ってこれない気さえしてくる。
桜花にとって、何かあった時にすぐ動けないそれはあまりにもよろしくなかった。
因み言えばこの後始まる女子特有の話とかも正直居心地が悪い事この上ない。
この中で戦えるのは自分だけだし、
本来なら護衛も兼ねてここにいるべきなのだろうが、
隣は男子部屋で隊員もいるからいいだろうと判断して、
月見に城の中を少し把握したいと告げ、
桜花は部屋を出た。
一応客としてもてなされているとはいえ、好き勝手に動き回れるわけではないのは分かっていた。
ダメなとこに立ち入ろうとした時は城の兵が止めるだろうと考え、
適当に歩き回る。
城に着いた時は直で風間達と合流したからちゃんと見ていなかったので、
あらためて見ると新しい発見…はそうなかった。
軽く見た感じ警備に隙はないようで、
自分が城に直接攻めに行くならどうするか考えていた。
兵達の目は冷たいが気にせず、ずんずん進む。
城内で見れるところもないので庭に出る事にする。
…といっても、中央部は直接海の上に建っている事もあり、
庭と呼べるものはない。
…強いて言えば海がそれに該当するのだろうか。
夜だからしょうがないのだが、
城門から見下ろす海は少し暗い。
明日からは本格的にお祭りが始まるから今日よりは明るくなるのだろうが、
やはり人が寝る時間帯なので、島に灯る明かりは少なかった。
城に直通している橋から各島に降り立つこともできるようだが、
不便である事にはかわりない。
潮祭の一日目の海上パレードは全島回るはずだ。
確かに一日がけないと回れないよなーということと、
修にそっくり王子が狙われる機会が多すぎて、
護衛するのも苦労するなーとか、どこか他人事のように考えていた。
配置も影武者の修の周りに側近での護衛、
街人に数人紛れる感じだ。
因みに風間隊はカメレオンで常に修と共にいるらしい。
それを聞いた時、絶対に近寄りたくないなと桜花は思った。
何も知らない反国家組織はさっさと仕掛けてやられてしまえばいいと思うくらいに、
近寄りたくなかった。
ま、桜花は待ち人に紛れての護衛班という事もあるが、
その間に例の質屋に行く予定なのだ。
どう間違っても近寄る事はない。
…そんな感じで明日の動きを考えていた。
どれくらい時間が経ったのかは分からない。
桜花は突然声を掛けられた。
「桜花さん、何してるの」
「それはこっちの台詞。お子ちゃまは寝る時間なんじゃないの?」
「生憎、俺は寝なくても平気な身体だから」
「それは便利ね」
桜花は素直に思った事を口にした。
「夜襲があっても対応できそうね」
「攻めてこない時はかなり暇だけどね」
「それは確かに」
お互い戦での対応の事しか考えていないのは、
近界で兵として過ごしたことがある者の感覚なのだろう。
人として本来あるべき姿を忘れている。
きっとこれは修や千佳が聞いたら悲しむ場面に違いなかった。
自分の事でもないのに遊真が寝なくてもいい身体である事に哀しみ、
何もできない自分を歯がゆく思うのだ。
そんな二人の姿が容易に想像ができて、遊真はふっと笑った。
ここに二人がいなくて良かったと思った。
まぁ、修や他の人間が寝てから遊真は外に出てきたので、
ここに修が来ない事は分かっているのだが。
風間や菊地原、ヒュースは遊真が部屋から出たのに気付いたかもしれない。
それでもつけてきていないのは信頼の証なのかもしれない。
そんな事を思いながらも、目の前の彼女に視線を向ける。
「ねぇ、どうして嘘ついたの」
急に遊真に言われて桜花は首を傾げた。
心辺りがありすぎて、何の事なのか桜花には分からない。
それを見て遊真は言う。
「合流した時、特に成果はないって言ってたやつ」
「何、疑ってるの?」
「別に全部が嘘じゃないというのは分かっている。
桜花さん、冬島さん達巻き込んで何する気なの?」
修が大変な時に…とまるで非難しているように桜花には聞こえた。
いや、どうなのかは知らないが…。
「巻き込んでなんかいないわよ」
(寧ろ私は撒きたいんだけど)
桜花は思わずにはいられなかった。
それを口にすると問い詰められそうなので口にはしなかった。
しかし、前々から気になってはいたけど――と桜花は思う。
遊真は嘘を見抜くのが上手すぎやしないかと。
初めて会った時もそうだった。
裏切ったりしないだろうかと探りに来られた――と少なからず桜花は思っているのだが、
「寝返るつもりはない」つまりは裏切るつもりはないと言ったわけだが、
その時遊真は確かに「嘘ではないようで」と言い切ったのだ。
何の確信を持って言ったのかは知らないが、
あの時桜花は遊真に対して底知れぬ何かを感じたのだ。
それ以降も、事ある毎に「つまらない嘘つかないでよ」とか言われたのだ。
知られたくないから嘘をついたのに何故ばれたのだろうかと内心焦った事も何度かあった。
その度に、分かりやすい態度をとっただろうかと自分の行動を省みるのだが、
普段通りだったと桜花は思う。
近界で同じようにやっていたが、まぁバレルことは早々なかった。
読心術に長けていると思った桜花は、
遊真の前では迂闊な事はしないようにしようと心に決めたくらいだ。
今もじっと見つめてくる目を見ていると、
なんだか負けてしまいそうな気がしてくる。
年下相手になに弱気になっているのだと桜花は心の中で自分を叱咤した。
一旦、冷静になろうとわざと大きく溜息をついた。
「本当に今日は成果はなかったのよ?これが繋がるかどうか…正直運だし。
修に危険が及ぶようなことはしないわよ?」
「ふーん、何をする気なのかは教えてくれないんだ」
「いや、アンタは修の護衛でしょうが」
「そうだけど。桜花さん余計な事しないでよ」
「…私そんなに問題を起こしてないと思うんだけど」
心外だと態度で表す。
そんな桜花の顔を見てから遊真は海の方を見る。
「攻めるなら上空か海からかしら」
「海からね…上から狙われたら終わりだけどな」
小舟を一艘見つけて遊真は目を細める。
トリオン体ではない桜花には見えないが遊真の雰囲気で察したらしい。
「無謀というか馬鹿というか…試されてるのかしら私達…」
「ギリギリまで見ておくか」
「そうね、一応ここの人間かもしれないし…違うなら侵入経路確認できていいんじゃない?」
「桜花さん、…自分で利用する気でしょ」
「人聞きの悪い事言わないでよ」
誰がどこで聞いているか分からないでしょと小声で付け足す。
その言いようはまるで私用で使いますと言っているようなものだ。
まぁ、そんな事にならないよう祈るばかりである。
小舟の影が動き出す。
それを確認して、遊真はトリガーを起動した。
遊真を見送りながら、
意外と反国家側は活発なんだなーとかそんな事を思う桜花だった。
20150916
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