信用と信頼
武闘大会
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武闘大会当日。
今年は例年よりも参加者が多いらしいが、そんな事進行には関係がなかった。
一ブロック約三十人とし、それが十六ブロックできる。
予選はそのブロック内で行われるバトルロワイアル。
その中で勝者が一人になれば本戦に進めるというものだ。
参加するのは先日知られた通り、桜花、米屋、そして風間である。
流石A級隊員なだけあって、勝利はちゃんと収めている。
上手くブロックがばらけているので、このまま順当に勝ち上がってくれれば文句は無しだ。
しかし桜花はそれができない理由がある。
何せ自分は準決勝で負ける予定なのだ。
桜花の当初の目的のワンツーフィニッシュは諦めて、
米屋には優勝して貰わないといけないので絶対に勝ちなさいよと念押しした。
桜花の裏事情は知らないので米屋は普通に激励だと勘違いしたらしい。
いつも通りのランク戦をイメージしているだけだった。
「なんでお前がここに…!」
控室。
本戦へ進むことになった者だけがいるこの部屋に声を掛けてきたのは二日ぶりに会う男だった。
「ハロルド。なんでいるの?」
「相変わらず人の話聞かないな」
殺伐としていた空気が突如変わったのを感じた。
本戦には風間も米屋も進んでいたが、
他人ということで接触はしていない。
他の者も自分のコンディションを確認したり、
次の対戦相手に殺気だっている。
そんな中、和気あいあいには程遠いが知人同士で何か盛り上がっているではないか。
それは視線がそこに集中するのは仕方なかった。
人の話を聞かない?
アンタは空気読まないわよねと言い返したい衝動に駆られたが、もう遅い。
折角、当真と米屋だけに事を止めたのに……と思う桜花だったが、
既に怪しまれているのも知っているので、
上手くすり替えればいいのではないかとも思った。
問題は桜花がそこに導けれる程の頭がないという事だ。
「傭兵辞めたのかと思ったけど、違うんだ?」
「新しい職探しだよ、馬鹿野郎」
「ふーん。それで見つかりそうなの?」
「……お前がいるからな……どうしていつも俺の邪魔ばかり!」
「本気で怒ってる?え、なんで?」
ワザとらしく言う桜花にハロルドは諦めたらしい。
人間何事も諦めが肝心だと呟いている。
桜花もハロルドが自分の事に嫌悪感を感じている事は知っている。
彼はそれでも桜花みたいな人間を無下にしないし、
どちらかと面倒見がいい。
なんだかんだで、敵と味方で何度か顔を合わせているのだ。
敵だと明確にされるまでは敵意を剥き出さない。
他人にとって理解はされなくても、
そういう付き合いになっても致し方ないと二人の間ではそうなっている。
これ程桜花にとって付き合いやすい人間はいないだろう。
ここにあの少年がいないからか、
昔話に花を咲かせている。
……内容自体は全然、花ではないのだが。
本線は何試合か行われており、大会は盛り上がりを見せていた。
特に注目を浴びているのは、
風間、米屋だろうか。
若いながら元気がいい、楽しそうだと、観客に評判がいい米屋。
それもそうだろう。戦闘民族なんだから楽しんで戦う。
表だって殺しを推奨しているわけではないか、
戦闘したら相手の息の根を止めるまで…という考えが多い参加者の中でいい意味で浮いていた。
ようは好感が高い。
対する風間も観客からの評判は良かった。
小さいのにも関わらず立ち向かう姿に胸が打たれるらしい。
観客たちの反応に米屋と桜花は噴き出しかけたがなんとか耐えた。
勘繰らないよう他人のふりをする事になっている。
「風間さん、ヤバ」「勇敢に戦う少年だって!」とか声を大にして言うものなら、
後が怖い。
しかも本人よりも風間隊面々に、である。
今頃、観客席に交じっている当真は堂々と笑い転げているに違いない。
「お前、次の相手気をつけろよ」
「?」
皆の試合様子を見ている中、不意に言葉を掛けられた。
いきなりなんなんだとハロルドを見る。
「準決勝……自称、戦場の破壊魔」
「あー…自称なんだ」
脳内お花畑なんだろうなと桜花は想像する。
噂の戦場の破壊魔さんは筋肉質な男だった。
大鎌を武器にぶんぶん振り回す姿は圧巻だ。
それが桜花が負ける予定である準決勝の相手だ。
「この前、怒ってた割には心配してくれるんだ?」
「心配なんかしてないぞ。
……アイツお前が嫌いなタイプだ」
静かに告げるハロルドにふーんと桜花は頷いた。
「それよりもアンタの相手。皆様に人気の小さな戦士よ?
さっさと負けてくれば」
「嫌な奴だな」
言うと準々決勝が行われる。
ハロルドの相手は風間だ。
どちらに分があるのか分かっている桜花としては応援するだけ無駄だと思っていた。
結果は勿論、風間に軍配が上がった。
予定通り順当に勝ち進んでいったボーダーチーム。
準決勝は風間対米屋。
桜花対戦場の破壊魔という形になった。
通り名の方がインパクト強すぎて未だに名前が分からない可哀想な男である。
そんな感じで準決勝が開始された。
先行して行われるのは桜花達の試合だ。
この試合は観客たちにとっては面白くない試合だろう。
男と女。
大釜と短剣というリーチの違い。
方や戦場の破壊魔(自称)。
そして、名の知らぬ武人(女)。
豪快な戦い方と、逃げ回って機会を伺う戦い方。
見た目的にもどちらが勝つか明らかだし、
戦い方からしてもどちらが好まれるかは一目瞭然だった。
桜花はこの試合で負ける。
それは観客からしてみれば予想通りの結果になるだろう。
しかしそれは桜花にとって簡単な話ではない。
それっぽく見せて、いい感じに終わらせるというリクエストがあったからだ。
試合運びの質を見られている。
これは相手が弱くても強くても成り立たない。
実力が拮抗している方が盛り上がりはするだろうが、果たしてどうなのだろうか。
男が大鎌を振る。
それを桜花は避けて距離を取る。
大型武器の一振りは威力はあるけどその分隙も生まれやすいものだ。
だが、この男の場合、
力任せに振っているだけなのに次の一振りまでの隙が異様に短い。
少しでもタイミングを外せば身体が真っ二つ。
あの大鎌を短剣で受け止めるなんていう馬鹿な真似も結果が見えているのでできないしやる気もない。
それに桜花としても無暗に近づきたくなかったというのもある。
男の間合いに入らないように逃げ回りながらどうしようか考えていた。
ずっと逃げ回っている桜花に最初に痺れを切らしたのは観客の方だ。
「逃げ回るなつまらない」「さっさと殺られてしまえ」と、好き勝手な事を言ってくれる。
上手く懐に入り込んで…しまうと、桜花が相手に止めをさすことになるので依頼が達成できない。
これを準決勝らしい試合にするのは相当無理なのではないかと思った。
男の間合いギリギリ入らない所でちょこまかと動く桜花に男の方も面倒になってきたらしい。
今まで大鎌を振るだけだったのが、遂に動き出した。
距離を縮めて大鎌を振られてしまえば、
桜花は避けるのが苦しくなる。
一撃を避けるが、その瞬間に起こる風圧に、
まるで男の方へ吸い込まれるかのような感覚になり、足元が巣くわれる。
それを逃さず二撃目が横から襲ってくる。
一か八かで踏ん張っていた足の力を弱め、滑り込む。
頭を少し掠めたが、トリオン体だから問題なし。
…いやトリオン漏出しているのであまり良くはないのだが。
そのまま攻めないのもおかしいので男の足を斬ってみる。
斬り落とす事ができなかったのは単純に男の反応が良かっただけだ。
寧ろ近づいてきたのを逃がそうともせず三撃目がくる。
振られた後に飛んでくる風圧に闘技場の壁が斬りつけられた。
もう少しずれていたら桜花も壁と同じように斬られていただろう。
初めての桜花の反撃に会場に歓声が沸き上がる。
それを聞く限り、そこそこ良かったのだろう。
これで桜花が攻撃の手を緩めなければ盛り上がりが加速するに違いない。
しかし、桜花はやっぱりこれ以上近づこうとはしなかった。
(遠距離攻撃できるものがあれば、無事に終わらせることができるかもしれないわね)
この試合で対峙して、
どうしてこの男と戦っていた人間が一撃目は避けても二撃目で斬られてしまうのか理由が分かった。
桜花がその事に気付いた事に男も気づいたのだろう。
大鎌を地面に突き立て地面を割る。
その残骸を桜花に向かって投げつける。
それを反射的にかわせば、それを読んでた男が大鎌を振る。
避けきれないと思った。
一撃目は運よく避けれても二撃目で捕まると思った。
しかしどういう事か、一撃目は運よく免れる。
先程と同じように風に足元が囚われるが二撃目で止めをさされることはなかった。
男がワザと空ぶったのは対峙しているからこそ桜花には分かった。
その行動の意味を理解するには桜花の頭では難しいだろう。
だけどその時は妙に頭が冴えていた…とでも言うべきなのだろうか。
それとも野生の勘が働いたとこか。
ふと桜花は自分の立ち位置が気になった。
気になった瞬間、目の前の出来事がスローで動いているような感覚になる。
だから咄嗟に自分は行動できたのだと桜花は思う。
大きく振りかぶられた三撃目。
それを放たれてはいけないのだと。
自分の半身を犠牲にしてでもここは止めなければいけないと判断した桜花は、
外さないようにするために、自分の左腕で刃を受け、
柄をぶった斬った。
その反動で自分の左肩から下が持っていかれる。
少し頭に血が上った桜花は短剣を男に投げつけてやった。
次に当たるのは風間か米屋だ。
その時の桜花がそこまで考えられる頭があったわけではない。
せいぜい、致命傷にはならなくてもトリオンが少しでも多く無駄になればいいと思ったくらいだ。
完全に嫌がらせだ。
しかし試合はここで終了となる。
武器が破損した者と身体の一部破損し、トリオン体の換装が解けた者、どちらが勝者なのかは明らかだった。
判定は武器の損傷だけで済んだ男に勝利が上がった。
桜花は自分の後ろを振り返る。
そこには修達の姿が…来賓席があった。
男…戦場の破壊魔(自称)に睨まれる。
その視線の意味を理解できた桜花は笑いそうになるのを堪え、
男を睨み返し敗者として闘技場から立ち去った。
20151002
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