信用と信頼
裏側で

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※オリキャラとの掛け合いのみ。
※軽い残酷表現あり。
苦手な人はベイルアウト推奨。読まなくても支障はないです。


武闘会も自分の出番が終了したので、
約束の時間まで街でぶらつくことにした。
当真達に合流しようかと思ったが、
流石に参加者だったので、しない方がいいと判断した。
その理由の一つには合流するとリンジと夜に逢えなくなる可能性があるというのもあった。
事が全て終わってからでも悪くはないだろう。
そんな感じでブラブラしていた。
暇潰しのものがなくなると、人間どうでもいいことをしたくなるものだ。
適当に出店で焼鳥を買って食べ歩く。
街を見回っているわけでもなんでもない。
「今回の武闘大会優勝したの子供だって!」
「ガセじゃねぇの?今回なんかスゲー奴いたんだろ?」
人々の噂を聞く限り、もう大会は終了したようだ。
しかも勝ったのは子供(風間)らしい。
ボーダーとしては予定通りだが、桜花にとってはそうではない。
(米屋…負けたのか)
折角の稼ぎが……と嘆きたくなる。
リンジから報酬は受け取れる。が、プラスアルファでもう少し欲しいと考えながら、
人気のないところを歩いていく。
そういえばボーダーから支給されたアクセサリーは身につけているとトリオン制限が掛かるのを思い出し、
そろそろ自分の身体から外してもいいだろうと考えていた。
腕につけていたのを外し、とりあえず拝借したトリガーにでもつけるかと、
人の邪魔にならないように路地裏に入る。
すると、それを待っていたかのように相手が殺気付きで話しかけてきた。
「待てよ」
「そんなに見つめないでくれない?
いきなり斬られるのか〜って、身構えるでじゃない」
言葉ではそう言っているが、
実際に桜花は何があってもいいように身構えている。
振り向けばそこにいたのは準決勝で戦った相手がいた。
「確認する。お前も雇われたんだろ?」
その言葉に桜花の脳裏にはリンジの顔が浮かんだ。
「何の事か分からないわ」
「とぼけるな!暗殺に協力する手筈だっただろ!?」
やはりそうか…と桜花は思った。
自分は反対勢力に加担させられている。
最初はその人間を優勝させるため…念の為にに配置された駒でしかないと思っていたが、
男の攻撃の仕方を見るにそうではないのだと判断する。

戦場の破壊魔(自称)。
男はどの戦いでも地面を割り、壁を壊していた。
その破壊力故、その通り名に何も知らない者は納得するだろう。
だが実際のところ、破壊魔という表現は一面的すぎる。
男の戦い方は遮断物を壊したりするだけでない。
気をつけなければいけないのは大鎌を振った後に起こる風だ。
ただの風圧ではない。
一撃目は、自分の方に引き寄せ、相手の動きを絡み取る風を起こす。
三撃目に対象を斬りつけるため風が斬りかかる。
そんな感じの動きをする。
桜花には通り名をつけるセンスがないのでどれがしっくりくるのか分からないが、
カマイタチ等風に関するものをつけるだろう。
だから本来なら破壊魔よりもそういった感じの通り名がつく可能性の方が高いはずだ。
しかしそうならなかったのは、通り名から自分の真の攻撃を悟られないためだ。
だから自分で破壊魔だと流し、
それを連想させるようにやたらと地面を割ったり、障害物を壊したりと派手なパフォーマンスをするのだ。
相手を翻弄する一つの手でもある。
桜花がその事実に気付いたのは試合で実際に戦ったからだ。
それがなかったら通り名に翻弄される一人になっていただろう。

そんな男の戦闘スタイルから考えられるが、
自分のトリガーの特性を活かし、
試合中の事故に見せかけて襲うのが目的だった。
最初は予定通り桜花が粘った。
逃げ回るだけだったがそれでも逃げる的を狙っていたから偶然を装う事はできたのだ。
だが、最後の最後で桜花が逃げずトリオン体の換装が解けてしまい、失敗する。
最後のチャンスは風間が阻んだ為、接触もできなかったのだろう。
試合を見ていないが相手が風間なら桜花の戦い方から男の本当の武器が分かったのだろう。
それに対して何も対策をしない風間ではないと桜花は思った。
そう考えると男がここにいるのは単に恨み言を言いに来たのだ。
「お前のせいで仕事がパァだ」
「私は自分に与えられた分働いただけよ?」
暗殺の邪魔をするなとも加担しろとも言われていない。
言われた通り立ち回ったはずだ。
「長くこの世界にいるんでしょ?人のせいにするの止めてくれない」
どれが地雷になったのか、若しくは最初からそのつもりだったのか、
男は桜花に掴みかかる。
それをかわすが、かわりに腹に一発殴られる。
その時、桜花は鬼怒田から渡されたアクセサリーを手放した。
痛みを堪え、後退しようとした所でそのまま地面に押し倒される。
男は容赦なく桜花の上に跨る。

――私が嫌いな人間か……。

ふいにハロルドの言葉を思い出す。
確かに桜花はこういう人間は嫌いだ。
男なら殴り殺されるのだろう。
女なら……と考えて吐き気を覚える。
いや、相手が自分を女と認識しているのは不幸中の幸いなのかもしれない。
「トリガー使い相手にこの暴挙……アンタ馬鹿なんじゃない?」
普通はトリガーを取り上げてから行為に及ぶ。
でないと殺されてしまうからだ。
トリオン体に傷をつけられるのはトリオンだけ。
他の武器では対応できない。
誰しも知っている事だ。
その事を桜花は言うが、男は桜花がそれをできないと踏んでいる。
何せ先程二人は試合でお互いの剣を交えたのだ。
男からしてみればお互いの実力は分かっているし、今、トリオンの状態がどうなっているかも分かっている。
トリオン体での戦闘中、意図しないところでトリオン体の換装が解けた場合、
換装できるようになるまで時間が掛かるのだ。
ボーダーのトリガーと違い近界のトリガーはトリオンが完全回復しなくてもトリオン体に換装して戦う事はできる。
ただ、全力は出せないだけで……。
だから男は例え換装しても害はないと考えている。
しても、あの状態なら武器までは使えないと知っているからだ。
自分も換装して抑え込んでしまえば済むと認識している。
男の認識は間違えていないし、対応する力もまぁあるだろう。
だからこその余裕だ。
傍から見ても劣勢なのは桜花の方だ。
しかし、桜花自身は今の状態に危険を感じない。
寧ろこの男は馬鹿だと再認識したくらいだ。

桜花の服に男の手が掛かる。
それを合図に桜花はトリガーを起動し、
拘束されていた手を解き、男の手を斬った。
地面にポタポタ、血が落ちる。
「斬り落としたはずだったんだけど」
意外と反射神経いいのねと桜花は笑う。
…口元は笑っているが目は笑っていない。
試合の時には感じなかった彼女の殺気に反応して男はトリガーを起動した。
「遅い」
桜花は懐に入って剣を振るう。
男は胸から流出するトリオンに舌打ちしつつも、大鎌を持ったまま後方に下がる。
桜花を引き斬るつもりだ。
その意図は分かっているので、焦ることなく桜花は男との距離を広げることなく動き、男の腕を斬り落とす。
試合の時は傷をつけるだけしかできなかった今はそうでない。
斬り落とされた己の腕に男は自分の目を疑う。

あの時は切り落とされなかったはずなのに……!

男の疑問は桜花によって解消される。
「トリオンの違いでしょ。
決勝戦、余程苦労したのねー」
確かに男は風間との戦いでも己のトリオンを消費しすぎだ。
しかし、自分より桜花の方が損傷がでかいはずだ。
なのに力負け(トリオン負け)している理由が男には分からない。
「本当、いい仕事をするわ」
鬼怒田製アクセサリーは身につけている人間のトリオン上限を抑える。
その分使えるトリオンも限られるというデメリットもある。
桜花は先程、それを外したばかり……
本来のトリオン量に戻った。
そして近界のトリガーはボーダーでいうベイルアウトした後でもトリガーの起動ができる。
おかげで桜花はトリオン体に換装して、安全圏で男を斬る事が出来るのだ。
「逃げる気?ま、逃がさないけど」
男の足を斬り落とす。
トリオン漏出過多によりトリオン体の換装が解かれた。
なんとも呆気ないものである。
先程の勢いなんて感じられない。
男はようやく自分が劣勢なのだと自覚したのだ。
「アンタ、勝てる戦場にしかいた事ないでしょ?」
どうすれば負けるのかを知らない。
危険に直面した時の抗い方を知らない。
死に追いやられた者の最期の足掻きを知らない。
…別に積極的に知れとはいわないが、
それを経験しているのとしていないのとでは全然違う。
桜花は優しく男の身体に傷を入れる。
「アンタ運がいいわよね。
いつもならさっさと殺しちゃうんだけど、今回はそうしちゃうと面倒な事になりそうなのよね」
だから仕方ないと桜花は言う。
「アンタのトリガー渡しなさい。
そうしたら生命はとらないわ」
男の喉元に剣を突き立てる。
そこからゆっくり刃を沈める。
待つ時間なんて与えないと伝える。
男の首からじわっと赤い液体が溢れる。
「わ、分かった……から、タスケテくれ……!」
男はトリガーを投げ捨てる。
それを確認して桜花は男の腕に剣を突き刺した。
「次、関わってきてら殺すから」
男は悲鳴を上げる。
突き刺さっている剣を引き抜くため、
自ら腕を引き、距離をとる。
別に桜花も苛めたいわけではないので、距離を縮める事はしない。
攻撃態勢にも入らない。
ただ睨むだけだ。
それを逃したらいけないと男は察知したようで、そのまま逃げ出した。

男の背中を見、桜花はトリガーを解除する。
まずはアクセサリーを拾い、トリガーに取り付ける。
ストラップをつける感覚に似ている。
アクセサリーの見た目のせいか女子力がアップした気がする。
まぁ、勿論気のせいだが…女の子ならやるかもなーというレベルだ。
その後に男が投げ捨てたトリガーを拾う。

「まぁ、いい拾い物、……かしら」

トリガーホルダーにしまわれているトリガーを抜き出す。
事が終わるまではこのトリガーの存在を知られるのは面倒なので、
とりあえず桜花はそれを隠す場所をどうしようかと考える。
そういえば、昨日リンジから貰ったんだっけと、
髪飾りを取り出しその装飾の一部に忍ばせる。

「それじゃ、酒場に行くか」

乱れた服装を整えて、桜花は路地裏から表へと出る。
リンジをどうするか考えながら、
桜花は約束の場である酒場へ向かった。


20151002


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