端と端
戦争で証明されたもの
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それは約三か月前に行われた遠征での話だ。
遠征チームとして選ばれたのは、
太刀川隊、冬島隊、風間隊だった。
遠征メインの城戸派に所属はしている隊の中でも、
打倒近界民と偏った思考を持っていない、割りと中間的な考え方や冷静な判断ができる部隊が選抜された。
…とはいっても彼等は遠征常連チームだ。
遠征の経験もあるため、条件が整えばひょいっと近界に行く事はあるものである。
遠征チームがその国に潜入した時、
あまりいい状況ではなかった。
戦争勃発前のピリピリした空気は忘れられない。
遠征チームが最初に出会った近界民は今まさに国に攻め入ろうとしているところだった。
突然の敵の出現に彼等は戦闘態勢に入った。が、
それをなんなく払いのけたのが太刀川隊だった。
こういう時の嗅覚は鋭い。
太刀川隊が表だって動いている隙に風間隊が隠密行動をとるのもいつもの事だった。
冬島隊はといえば、冬島が遠征艇に残り指揮をとる一方で、
彼のトリガーによりワープさせられていた当真はしっかりと狙撃ポイントを押さえていた。
太刀川隊がとり逃せば風間隊ないし当真が残りを処理する陣形だ。
この辺りを一掃しようとした寸前で、白旗を上げたのは向こうだった。
それが今回の交渉相手になった。
頭を使う仕事は大体風間隊か冬島がやってくれる。
当真は事の流れを見ているだけだったが、
意外と上手くいくものだなと思う。
交渉内容は至って簡単だ。
情報ないし、トリガー技術を寄越せ。
そのかわりこちらはそちらの命を助け、この戦争で援軍として力を貸すというものだった。
ボーダーの戦力を目の当たりにした交渉相手にとってこれは破格な交渉だったに違いない。
一瞬、考える素振りはみせたものの承諾した。
まずは命を取らなかった事に対し、
相手は二つの情報を与えた。
一つ目はこの国の一部のトリオン兵の情報だった。
トリオン兵は同じように見えて国によってその性質が少し違うらしい。
これは冬島の領域なので当真には全く分からないがあると凄く助かるらしい。
まずはそれで良しとした。
そして二つ目は敵である相手国の情報だ。
今から墜としにいく敵国だから情報の信憑性は高い。
相手の国はプロディティオ。
所有している黒トリガーは三本。
しかし使い手に恵まれていないらしい。
突発的に何をしでかすか分からないところはあるがそれさえ気をつけていれば勝てるらしい。
それを加味して戦況は五分五分。
突破口となる攻撃力を持つ隊が欲しかったところで交渉相手は太刀川達と会ったのだ。
少しは兵を削られてはしまったが、
ボーダーの戦闘はここ近界でみるものと違い情報がない。
そのため、もとはとれると判断したらしい。
交渉相手にとっては不幸中の幸いだったのだろう。
こうして当真達は援軍として参戦した。
援軍の話はしっかりと全軍に知れ渡っており、
誤って攻撃を喰らうことはなかった。
対人型でたくさんを相手にするのは初めてではあったが、
いつも通りでいられたのは訓練の賜物か、それとも仲間のおかげなのか。
攻め込んで割と早い段階で戦争の勝敗が見えた。
シューティングゲームのように次から次へと現れる敵を撃つ事はそれはそれで楽しいのだが、
面白味には欠けていた。
いや、戦争だから面白くては困るのだろうが。
ここまでくれば戦況は覆ることはほぼないだろうというところまでいくと、
敵も自分達の負けだという事を悟ったらしい。
苦渋に満ちた顔を見るのは結構辛いものがある。
そんな中、当真は面白い的を見つける。
敵城付近に一人で暴れている兵がいた。
周りを囲まれてもギリギリのところでかわし、斬っていく。
A級並の動きだ。
「太刀川さん好きそうだなー」
敵が強ければ強い程、ボーダーの戦闘狂は悪人面でほくそ笑むのだ。
あの顔はマジで怖い。
それをどう倒すか動くのもまた楽しいものではあるのだが…
「やべーわ。あれ黒トリガーかな」
一人の兵のおかげで完成しかけていた包囲網が崩れる。
そのまま突っ込んで城から離れていくその兵を、
周りは追いかけていく。
その隙に城から数人兵が飛び出して行くのが確認できた。
どうやらあの兵は斥候らしい。
あの兵は討ち取らないといけないのは明白だ。
太刀川に横取りされる前に自分が獲っておこうとスコープ越しに当真は相手を見た。
森の中に逃げ込んだが大丈夫だ。
少しでも開けたところに出れば撃ち抜く自信は当真にはあった。
兵が姿を現した。
敵に囲まれているがあの実力なら全て倒すだろう。
その瞬間を狙って…引き金を引こうとした時だ。
『当真、離脱するぞ』
通信でそれを聞いた時、嘘だろうと思った。
手にかけていた引き金を当真は離した。
まだ最中だというのにどうして途中で離れないといけないのか当真には分からない。
ただ、相手から報酬を受け取ったらしい。
つまりは任務達成という事で、
戦争に乗じ、今のうちに帰還する事になった。
「当真、了ー解」
遠征艇に戻るため、戦線を離脱した。
近くに敵がいない事を確認して動く。
これが元の世界ならベイルアウトで飛んで行くだけだから楽なのに、
流石に遠征でそれは叶わなかった。
皆と合流し…
そこでたまたまその場で先程見た兵と鉢合わせた。
先に仕掛けたのはボーダーの方だった。
城付近で戦っている時もそうだったが、
風間隊の隠密攻撃を初見で止め、
太刀川の追撃をなんとかかわした彼女の姿は、
敵として凄いなと感心したのを当真は覚えている。
太刀川が交戦している間に、
当真は狙撃手としての仕事を全うすべく、
そこから数キロ先のポイントから指示さえあればいつでも撃てるように構えていた。
しかし彼女はこの戦闘は避けるべきだと判断し、逃亡した。
おかげで当真が彼女に止めをさす事態にはならなかったのだが…
代わりに彼女は仲間である男に殺された。
奇蹟的に一命をとりとめたから死ななかったので殺されたというのもおかしな話かもしれない。
だがあの時、確かに男は彼女を殺そうとしていた。
あそこで太刀川があの男を斬らなかったら、
桜花は止めをさされていたのかもしれない。
それを離れていたところから見ていた当真は、
どう見ても桜花が国を売ったとは思えなかった。
寧ろあの状況なら、国のため…もしくは仲間のために少しでも長く戦おうとしていたのではないかとさえ思う。
リーベリーのとある場所、
国の反対勢力との戦いの最中で、当真は援護するため敵のアジトの外にいた。
いつもの冬島隊での戦いなら自分が率先して敵を獲りに行くが…少し物足りないが戦争だからしょうがない。
そんな時、冬島から連絡が入った。
『当真』
「隊長〜何かありました?」
『ああ、明星が見つかった。
今からそっちに投入するからあとは前に任せるわ』
「マジすか、隊長」
ワープ後はどうしても無防備な状態になるから援護しないとすぐに討ち取られる可能性がある。
当真はスコープを覗き、引き金に手を掛ける。
桜花と連携はやった事ないが、
前に見た彼女の戦い方を思い出し、シミュレーションする。
――まぁ、なんとかなるっしょ。
ふと、当真は街で出会った少年に桜花が裏切り者と言われていたのを思い出す。
一度でも彼女の戦い方を見た事があればそう思わないだろうに。
斥候とはそういうものだが、それができる人間は限られてくる。
そしてその人間が無事に帰ってきたら…それだけで信用、信頼に値するのではないか。
少なくても当真はそう思った。
だから引き金を引くのに躊躇いはなかった。
彼女は裏切り者ではない。
その事実を知っている。
彼女は裏切らない。
戦い方からそれが分かる。
何も打ち合わせをしていないのに綺麗に決まる連携に高揚する。
ここまで上手くいけば、気が合わない…わけがない。
少しでもタイミングがずれれば、この銃弾は桜花の身体を撃ち抜くだろう。
しかし、そうならないのは向こうもこちらに信頼を寄せているからだ。
彼女は仲間だという事実は今、
この一戦で証明される。
「女にしておくの勿体ねぇな」
当真はニヤリと笑いながら、引き金を引いた。
20160618
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